この記事は、従業員10〜20名の事務系中小企業で、紙の伝票や申込書をAI-OCRでデータ化できないか検討している経営者・管理部門に向けて書いています。取り上げるのは東京都世田谷区の印刷会社、株式会社ホープンの事例です。
扱うのは、手書き伝票をAI-OCRでデータ化した工程と、出典が数値をどこまで公表しているかです。この事例には削減時間、削減費用、導入コストのいずれも記載がありません。数字が無いことを隠さずに扱います。
同社はほかにも店舗の無人化や印刷物の自動検査にAIを使っていますが、これらは印刷業固有の打ち手であり、事務系の紙業務とは対応しません。本記事では対象外として明確に分けます。
手書き伝票をデータ化した会社の話
株式会社ホープン(2024年9月に株式会社プリントボーイから社名変更)は、東京都世田谷区で印刷事業、デジタルコンテンツ制作、アウトソーシング事業を営む会社です。従業員数はアルバイトスタッフを含めて41名。年賀状受注では店頭にアルバイトが常駐し、手書き伝票で対応していました。出典は東京商工会議所「中小企業のデジタル活用・DX事例集」(https://www.tokyo-cci.or.jp/digital-support/column_39/、掲載日不明・vol.39、確認日2026年9月24日)です。
着手前の課題は、業務の属人化と、スタッフの人員確保・研修に要する工数の増加でした。手書き伝票への対応は、経験を積んだスタッフでなければ捌けない業務になっていたことがうかがえます。
AI-OCRをどこに使ったか
同社は、手書き伝票をスキャンしてPDF化し、AI-OCRでデータ化しました。あわせて、料金見積もりの自動計算システムを設計・構築し、伝票からタブレット注文システムへ移行しています。この一連の流れが、事務系の紙業務に対応する部分です。
| 工程 | 対応するAI-OCRの用途 | 事務系への対応 |
| 手書き伝票のスキャン→PDF化 | データ化の前処理 | 対応する(紙の申込書・注文書全般) |
| AI-OCRによるデータ化 | 手書き文字の読み取り | 対応する |
| 料金見積もりの自動計算 | データ化後の後処理 | 対応する(計算式が決まっている業務) |
| 店舗の無人化・印刷物の自動検査 | AIによる画像照合 | 対応しない(印刷業固有の現場業務) |
同社はAIで入稿データと印刷物を自動照合・検査する仕組みも導入していますが、これは印刷という業種固有の検品工程です。事務系企業が参考にできるのは、手書き伝票をデータ化して自動計算へつなげた前半の工程にとどまります。
出典に数値が無いこと自体を確かめる
出典には、導入にかかった期間や費用への言及が見当たりません。結果についても「人的ミスやトラブル対応にかかっていた膨大な残業時間が大幅に削減」「業務効率化・省人化による人件費削減」という定性的な表現にとどまり、具体的な時間数や金額は示されていないままです。
つまずきについても「時には失敗することもありますが」という一文があるのみで、具体的な内容は記載がありません。数字と詳細が乏しい事例であることを、そのまま読者へ示します。
数字が無くても分かること
数値が無い事例からも、工程の順序という情報は得られます。同社は「スキャン→AI-OCR→自動計算→タブレット注文」という順に段階を踏んでおり、手書き伝票をいきなり全廃したわけではありません。データ化と自動計算という後工程を先に作ってから、受注の入口をタブレットへ移した順序が、数字が無くても読み取れる情報です。
「スタッフ採用の幅が広がった」という記載も見逃せません。手書き伝票の処理に経験が要らなくなったことで、採用条件を緩められたと読み取れます。これは属人化の解消という観点で、削減時間の数字よりも先に確認できる効果です。
自社の紙業務に置き換えると何が変わるか
自社に当てはめる場合、まず対象にするのは、記入項目がある程度決まっている紙の申込書や注文書です。宛名、数量、品目コード、希望納期のように、欄ごとに書く内容がおおむね決まっている書類が対象に向きます。手書きの自由記述が多い書類や、押印・訂正印など人の目視確認が前提の書類は、最初の対象には向きません。
対象を選ぶ際は、伝票の枚数そのものより、いま誰が処理しているかを先に確認します。ホープン社の事例で「スタッフ採用の幅が広がった」という効果が出たのは、経験者でなければ捌けなかった業務が、経験を問わない業務へ変わったためです。処理件数の多さより、特定の担当者に処理が偏っている書類を優先すると、属人化の解消という効果につながりやすくなります。
AI-OCRの導入手順そのものはAI-OCRの導入手順で、読み取りの仕組みと確信度スコアの考え方はAI-OCRの仕組みで扱っています。縦書きやマークシートなど対応が難しい書類の扱いはAI-OCRが苦手な書類に整理してあります。
この事例が当てはまらない場合
従業員41名という規模は読者の2倍程度で、業種も印刷業という現場作業を持つ会社です。店舗の無人化や印刷検査AIのように、現場設備を前提にした打ち手は、内勤中心の事務系企業には対応する業務がありません。数字が示されていない事例である以上、投資判断の根拠として金額やROIを求める場合は、この事例だけでは材料が不足します。
よくあるご質問
数値の記載が無い事例を、導入の判断材料にしてよいですか
投資額に見合う効果があるかどうかの判断には向きません。この事例から持ち帰れるのは、工程の順序や属人化の解消という効果の種類であり、金額やROIの目安ではないためです。費用対効果を検討する場合は、自社の伝票枚数と処理時間を実測したうえで判断する必要があります。
手書きの自由記述が多い書類でもAI-OCRは使えますか
この事例の出典には、伝票の記入項目や書式に関する詳細が書かれていないままです。一般に、記入項目が決まっている書類のほうがデータ化の精度は安定しやすく、自由記述が多い書類は最初の対象には向きにくい傾向があります。対応可否は製品仕様として確認できる場合があるため、導入前に自社の伝票を使った試験読み取りを行うことを勧めます。
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