この記事は、従業員10〜20名程度の製造業・物流業・小売業で、専任の在庫管理担当や購買担当を置いていない会社に向けたものです。発注のタイミングを、経験の長い1人の担当者の勘に頼っている状態を想定しています。
発注点という考え方自体は検索すればすぐに出てきますが、計算式に当てはめる平均出庫量を実際にどう測るか、そして計算どおりに発注していても欠品が起きたときに何をするかは、多くの解説に書かれていません。この記事ではこの2点を中心に扱います。
在庫管理システムやIoT機器の選定、需要予測を行うAIの導入は扱いません。専用ソフトを前提にせず、Excelと手作業で完結する範囲に絞り、発注方式も比較は行わず、発注点を用いる定量発注方式に絞って扱います。
先に結論|発注点の数式より先に、平均出庫量の測り方を決める
発注点は「平均出庫量×調達期間(リードタイム)+安全在庫」という式で求まります。この式は在庫管理を扱う複数の解説で共通して使われている一般的な考え方で、特定の製品や企業に限定されたものではありません。
式そのものは単純ですが、当てはめる数値が手元になければ計算のしようがありません。この記事で先に決めておくべきだと考えているのは、次の3点です。
- 平均出庫量は過去の出庫記録から実測する。記憶や感覚で見積もらない
- 安全在庫は欠品したときの影響度から決める。全品目に同じ日数を当てはめない
- 欠品が起きたら発注点を疑う前に、まず影響範囲の確認と代替手段の確保を行う
在庫管理をExcelや勘に頼ると何が起きるか
発注のタイミングを担当者の経験と残数の目視確認だけで決めている会社は珍しくありません。この方法は、担当者が長く同じ業務を続けている間は大きな問題を起こさずに回ります。担当者が休んだり異動したりした瞬間に、発注の基準がどこにも残っていない状態が表面化します。
出庫の記録も同様です。日々の出庫を紙の伝票や記憶に頼っていると、平均出庫量という数字そのものが存在しません。発注点の式に数値を当てはめようとした時点で最初の壁にぶつかります。式が難しいのではなく、式に入れる材料がまだ手元にないという問題です。
| 状態 | 発注への影響 |
| 出庫記録が紙や記憶頼み | 平均出庫量を算出できず、発注点を計算で決められない |
| 発注担当と検品担当が同じ1人 | 発注のタイミングを客観的に見直す機会がない |
| 発注点を一度決めたら見直さない | 需要が変わっても在庫水準が古いまま固定される |
| 専任のIT担当がいない | 在庫管理システムへの移行を前提にした解説が、そのままでは実務に合わない |
最後の行は、在庫管理を解説する記事の多くがシステムやアプリの導入を結論にしていることを指します。導入の是非を否定するものではありませんが、予算や専任者がいない状態では次の一歩になりません。業務全体を棚卸しして優先順位を付ける作業は業務棚卸し表の作り方で扱っており、この記事はそのうちの発注業務を切り出して深掘りする位置づけです。
手順1|発注点の計算式(リードタイム×平均出庫量+安全在庫)
発注点とは、在庫がこの数量まで減ったら次の発注を行う、という基準値です。計算式は次のとおりです。
発注点=平均出庫量×調達期間(リードタイム)+安全在庫
3つの要素それぞれの中身をどう決めるかで、発注点の精度が変わります。
| 要素 | 意味 | 求め方 |
| 平均出庫量 | 一定期間に出ていく数量の平均 | 手順2で実測する |
| 調達期間(リードタイム) | 発注してから入荷するまでの日数 | 過去の発注書と納品書の日付差から数える |
| 安全在庫 | 欠品を避けるために上乗せしておく数量 | 手順3で決める |
調達期間は仕入先ごとに異なり、同じ仕入先でも繁忙期には延びることがあります。過去の発注書の発注日と、納品書の納品日との差を数件分並べると、平均的な日数とばらつきの両方をつかめます。
手順2|平均出庫量を実測する方法(季節変動・繁忙期の扱い)
出庫記録が無い場合、まず記録を取り始める
過去の出庫記録が残っていない場合は、平均を計算する前に記録を取る期間が必要です。最低でも直近3か月分の出庫数を記録できれば、平均を出す材料になります。記録する項目は日付・品目・出た数量の3つで足り、Excelの1行に1件ずつ入力する形で十分です。
過去データがある場合の集計方法
出庫記録がすでにある場合は、対象期間の合計出庫数を期間の日数または月数で割るだけで平均出庫量が出ます。注意したいのは平均を出す期間の取り方です。1か月だけを見ると、たまたま多かった月・少なかった月の影響をそのまま受けます。直近3〜6か月分をならして使うほうが、日々の発注判断には安定します。
繁忙期・季節変動をどう扱うか
特定の月だけ出庫が跳ね上がる品目では、通年の平均をそのまま使うと繁忙期に欠品し、閑散期には過剰在庫になります。繁忙期がある品目は、通年の平均とは別に繁忙期だけの平均出庫量を出しておき、その時期が近づいたら発注点を一時的に引き上げる運用にします。
次の表は考え方を示すための仮の値です。実際の数値は自社の出庫記録から出してください。
| 月 | 出庫数(個) | 備考 |
| 6月 | 120 | 通常月 |
| 7月 | 150 | 通常月 |
| 8月 | 300 | 繁忙期 |
| 平均(6〜8月・単純平均) | 190 | 繁忙期を含む |
| 平均(6〜7月のみ) | 135 | 繁忙期を除く |
通年の単純平均190個をそのまま発注点に使うと、繁忙期の8月には不足し、6月・7月には過剰になります。繁忙期を除いた135個を基本の発注点に使い、8月の直前だけ300個相当まで発注点を引き上げる、という運用のほうが実態に近づきます。
手順3|安全在庫の決め方
安全在庫は、調達期間中に出庫量が想定より多かった場合や、仕入先からの入荷が遅れた場合の余裕分です。標準偏差を使った統計的な計算式もありますが、専任の担当者がいない状態で毎回それを計算するのは現実的ではありません。ここでは、欠品をどこまで許容できるかという判断から安全在庫を決める簡易な方法を扱います。
| 要素 | 確認すること | 安全在庫への影響 |
| 欠品時の影響度 | 欠品すると顧客への納期に響くか、社内で待たせるだけで済むか | 響く品目ほど厚くする |
| 調達期間のばらつき | 発注から入荷までの日数が仕入先ごとにどれだけ揺れるか | ばらつきが大きいほど厚くする |
| 出庫量のばらつき | 平均出庫量に対して、多い月・少ない月の差がどれだけあるか | 差が大きい品目ほど厚くする |
3つのうち1つでも影響が大きいと判断した品目は、安全在庫を平均出庫量の数日分程度上乗せする形で運用できます。全品目に同じ安全在庫日数を当てはめると、影響の小さい品目まで在庫を積み増し、過剰在庫の原因になります。
手順4|発注点を定期的に見直すタイミング
発注点は一度決めたら固定するものではありません。しかし専任の担当者がいない会社では見直す仕組みそのものがなく、需要が変わっても古い基準のまま発注が続きがちです。見直しを特定の日に固定するより、次のような出来事が起きたときに見直す運用のほうが現実的です。
- 欠品が起きたとき。発注点が低すぎた可能性を確認する
- 在庫が慢性的に積み上がっているとき。発注点が高すぎる可能性を確認する
- 発注や検品の担当者が交代するとき。引き継ぎのタイミングで基準を確認する
主要な取引先を変更したときも同様です。調達期間そのものが変わるため、切り替えのタイミングで発注点を確認します。担当者が交代するときは、発注点の数値だけでなく、なぜその数値にしたのかという根拠もあわせて引き継ぐ必要があります。数値だけを渡すと、前任者が繁忙期を見込んで引き上げていた理由が伝わらず、後任者が高すぎると判断して下げてしまうことも珍しくありません。Excelのシートに発注点の隣へ決めた理由を一言添えておく運用は、業務標準化の進め方で扱った、手順を書き残す考え方と同じです。
欠品が起きたときの初動対応
発注点を正しく設定していても、需要の急な変動や仕入先の遅延で欠品は起こり得ます。発注点の計算式を解説する記事の多くは欠品を防ぐところまでで説明が終わっており、実際に欠品した後に何をするかは書かれていません。ここでは欠品が判明した時点からの初動を時系列で扱います。
| 時間軸 | やること |
| 判明した直後 | 欠品している品目と数量、影響を受ける顧客・工程を確認する |
| 当日中 | 代替品の在庫や、他拠点からの融通が可能か確認する |
| 入荷までの間 | 顧客や社内の関係部署へ、いつ解消する見込みかを伝える |
| 入荷後 | 発注点が低すぎなかったかを、手順4の基準で見直す |
最初にやることは代替の手配ではなく、影響範囲の確認です。影響範囲が分からないまま代替品を探し始めると、実は困っていなかった相手にまで連絡したり、本当に困っている相手への連絡が後回しになったりします。
よくあるつまずきと対処
発注点を決める作業では、同じつまずきが繰り返し起こります。
| つまずき | 主な原因 | 対処 |
| 平均出庫量が毎回違う数字になる | 集計する期間をその都度変えている | 直近3〜6か月など、期間の取り方を固定する |
| 繁忙期に欠品する | 通年の平均だけで発注点を決めている | 繁忙期専用の発注点を別に用意する(手順2) |
| 発注点を決めた理由が分からなくなる | 数値だけを記録し、根拠を残していない | 決めた理由をシートに一言添える(手順4) |
| 担当者が変わるたびに発注点が作り直される | 引き継ぎが数値の受け渡しだけで終わっている | 根拠つきで引き継ぐ運用にする |
| 安全在庫が全品目同じ日数になっている | 個別の影響度を確認せず一律に設定している | 欠品時の影響度で品目ごとに調整する(手順3) |
| 欠品後、原因を確認せず発注点だけ上げる | 入荷後の見直しを手順化していない | 入荷後に見直す手順自体を決めておく |
よくあるご質問
発注点は品目ごとに決める必要がありますか
はい。出庫量やリードタイムは品目ごとに異なるため、全品目に同じ発注点を当てはめると、動きの速い品目で欠品し、動きの遅い品目で過剰在庫になります。出庫量の多い主要品目から順に、手順1〜3を適用していく進め方で構いません。
平均出庫量を出す期間は、必ず3〜6か月にする必要がありますか
決まった正解はありません。出庫の変動が少ない品目は短い期間でも安定した平均が出ますし、変動が大きい品目はもう少し長い期間で見たほうが実態に近づきます。この記事で3〜6か月を目安としているのは、記録の手間と精度のバランスを考えたとき、専任者がいない体制でも続けやすい範囲だからです。
標準偏差を使った安全在庫の計算式を使わなくてもよいですか
使えるなら精度は上がります。ただし出庫データの蓄積が浅い、担当者が交代したばかりという状態では、統計計算に必要なデータそのものが揃っていないことが少なくありません。この記事で扱った、欠品時の影響度から安全在庫を決める方法は、データが十分に揃うまでの簡易な代替手段として位置づけてください。
在庫管理システムを導入したほうがよいのはどんな場合ですか
品目数が多く、Excelでの手作業更新が発注担当者の主な業務時間を占めるようになった場合や、複数拠点間で在庫情報を共有する必要が出てきた場合は、システム導入の検討時期といえます。この記事はその手前の段階、手元のExcelと手作業のままで発注点を運用できる会社を対象にしています。
まとめ|今週やること
発注点の式そのものは難しくありません。時間がかかるのは、式に入れる平均出庫量を実際に測る作業と、欠品が起きたときにあわてず対応できる初動を先に決めておくことです。
今週やることは1つです。出庫量の多い品目を1つだけ選び、過去3か月分の出庫記録を集めて、月ごとの出庫数をExcelに並べます。この1品目分の作業が終われば、手順1の計算式にそのまま当てはめられる状態になります。
発注点の決め方や、自社に合わせた優先品目の選び方を相談したい場合は、お問い合わせからご連絡ください。
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