AIに出す指示文で、うまくいったものを社内で共有したい。この段階にいるAI推進担当に向けて書いています。想定しているのは、従業員10〜20名で、専任のIT担当がいない会社です。指示文はプロンプトとも呼ばれ、社内でプロンプト集やプロンプトライブラリと名前が付いている取り組みも、指しているものは同じです。
先に結論
共有の方法を考える前に、確認することがあります。そのツールを乗り換えたとき、書き溜めた指示文を持ち出せるかです。持ち出せない製品では、蓄積した分がそのまま消えます。そして共有するものは、指示文そのものではありません。指示文に含まれる前提です。自社の様式、呼び方、判断の基準。指示文はツールが変われば書き直しますが、前提は変わりません。集めた指示文が使われないのは、多くの場合、量が多いからです。1業務あたり1つに絞ります。
持ち出せるかを、公的な調達基準が求めている
デジタル庁の調達チェックシートに、生成AIシステムを調達する際の加点項目として、プロンプトのテンプレート登録機能とエクスポート機能が挙げられています。登録できることと、書き出せることが並んでいる点が重要です。登録だけできて書き出せない場合、そのツールの中に閉じ込められます。出典: デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(第2.0版)」別紙3 調達チェックシート(2026年6月12日/確認日 2026年9月1日)契約前に確認する項目としては次になります。
| 確認すること | 確認のしかた | できない場合 |
| 登録した指示文を書き出せるか | 管理画面に書き出しの機能があるか見る | 外部のファイルで管理する |
| 書き出しの形式 | テキストかCSVか。開ける形式か | 画面から手で写すことになる |
| 解約後も取り出せる期間 | 契約書または利用規約を見る | 解約前に書き出す |
| 誰が書き出せるか | 管理者だけか、利用者もか | 退職時に個人の分が失われる |
4つ目は見落とされます。個人の画面にだけ溜まっている指示文は、その人が辞めると消えます。契約や解約とは別に、日常的な問題です。契約全般の確認事項はAIツールの費用で扱っています。
ツールの外に置くもの

指示文をそのまま集めると、ツールを乗り換えたときに使えなくなります。製品ごとに書き方の癖があるためです。外に置いて残すのは、指示文に含まれる前提のほうです。
| 残すもの | 内容 | 例 |
| 自社の呼び方 | 社内で使っている用語と、その意味 | 「案件」は受注前、「工事」は受注後を指す |
| 様式の決まり | 文書の形式、項目の順序 | 見積書は先方の様式に合わせる |
| 判断の基準 | どうなったらどうする、という線引き | 10万円を超える場合は上長へ確認する |
| やってはいけないこと | その業務で避けること | 顧客名を含めたまま外部へ出さない |
| 確認する人 | 出てきたものを誰が見るか | 請求関連は経理が確認する |
この5つは、ツールが変わっても変わりません。新しい製品に移った日に、これを読んで指示文を組み直せます。逆に、指示文だけを集めていると、移った時点で作業がやり直しになります。
置き場所は、すでに社内で使っているもので足ります。1業務あたりA4で1枚が目安です。新しい保管場所を立ち上げると、そこを見る習慣が無いために読まれなくなります。候補は3つあり、選ぶ基準は画面の使いやすさではなく、乗り換えたときに持ち出せるかどうかに置きます。
| 置き場所 | 向いている点 | 持ち出すときの扱い |
| AIツールに付いているテンプレート機能 | 使う画面の中にあるため、呼び出す手間が少ない | 書き出しの機能があるかどうかで決まる。無ければ画面から写す |
| 共有フォルダのテキストファイル | 契約に左右されず、そのまま複製できる | ファイルごと移せる |
| 社内のナレッジ共有ツールや社内Wiki | 検索でき、誰がいつ更新したかが残る | 多くはテキストで書き出せる。解約の前に形式を確認する |
1つ目は使うときに最も近い場所ですが、書き出せない製品では蓄積がその中に閉じ込められます。2つ目と3つ目は呼び出す手間が増える代わりに、契約が終わっても手元に残ります。日々の指示文はツールの中、前提のほうは外のファイルへ、と分けるのが現実的です。こうしておけば、乗り換えの判断が蓄積した量に縛られません。
配ったものが使われない理由
指示文を集めて配る取り組みは、多くの場合うまくいきません。理由は3つあります。
| 理由 | 起きること | 対処 |
| 量が多い | どれを使えばよいか分からず、開かなくなる | 1業務につき1つに絞る |
| 自分の業務に合わない | 書き換えが要るなら自分で書いたほうが速い | 配る対象を、同じ業務をする人に限る |
| 更新されていない | 古い前提のまま残り、使うと間違える | 更新しないものは削除する |
1つ目が最も多く起きます。数を集めることが目的になると、使われる可能性は下がります。教育としてどう設計するかは生成AIの社員教育で扱っています。この記事が対象にするのは、教える場面ではなく残す場面です。
1業務ぶんの書き方
前提をA4で1枚にまとめる、と書きました。実際の中身は次のようになります。請求書の作成を例にします。
| 項目 | 書く内容の例 |
| この業務は何か | 月末に、当月分の請求書を作って送る |
| 扱う情報 | 顧客名、金額、明細。顧客名は社外へ出さない |
| 自社の呼び方 | 「案件」は受注前、「工事」は受注後。請求は工事に対して行う |
| 様式の決まり | A社は指定様式、それ以外は自社様式。振込先は本社口座のみ |
| 判断の基準 | 金額が10万円を超える場合と、値引きがある場合は経理へ確認する |
| 確認する人 | 経理担当。送信前に必ず通す |
| やってはいけないこと | 顧客名を含めたまま外部のサービスへ貼り付けない |
この7項目があれば、どの製品を使う場合でも指示文を組み直せます。製品ごとの書き方の違いは、その都度合わせれば済みます。前提のほうが、書くのに時間がかかり、失われると痛い部分です。業務そのものの記録がまだの場合は、業務棚卸し表の作り方で先に一覧を作るところからになります。
誰が更新するかを決める
集めた指示文が使われなくなる原因の多くは、更新されないことです。前提が変われば指示文も変わりますが、変えるのが誰の仕事かが決まっていません。
| 決めること | 決め方 | 決めていない場合 |
| 更新する人 | その業務を最も多く行う人 | 気付いた人が直す=誰も直さない |
| 更新のきっかけ | 様式が変わった、判断の基準が変わった | 古いまま残る |
| 確認の頻度 | 3か月に1回、使われているかを見る | 使われていないものが溜まる |
| 削除の判断 | 3か月使われていなければ消す | 探しにくくなる |
1つ目を「AI推進担当」にはしない、という点が要点です。推進担当はその業務をやっていないため、前提が変わったことに気付けません。実際にその作業をする人が更新する形にします。定期的な確認の場に組み込む場合はAI活用の定期点検の進行に足す形が扱いやすくなります。
研修を実施している企業の数字
中小企業白書に、研修の実施と失敗率を対比した記述があります。研修を実施している企業では失敗率が8.7%、実施していない企業では19.1%です。出典: 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」(2026年4月/確認日 2026年9月1日)
ただしこれは相関であって因果ではありません。研修をしたから失敗が減ったのか、体制が整っている会社が研修もしていたのかは、この対比からは分かりません。数字を根拠に研修を決めるより、自社で何が分からなくて止まっているかを見るほうが確実です。
個人が持っているものを、どう社内に出してもらうか
うまく使っている人は、たいてい自分の手元に工夫を溜めています。それが社内に出てこないことがあります。理由は隠しているからとは限りません。本人が「共有するほどのものではない」と思っている場合が多くあります。日常的にやっていることは、本人にとって当たり前です。
| やり方 | 内容 | 効く理由 |
| 聞き方を変える | 「良い指示文はありますか」ではなく「最近これで楽になったことはありますか」と聞く | 本人が価値を判定しなくて済む |
| 画面を見せてもらう | 実際にやっているところを1回見る | 口頭では出てこない手順が見える |
| こちらが書き起こす | 本人に文書化させない | 書く手間が理由で出てこないのを防ぐ |
| 出典を残す | 誰の工夫かを書いておく | 後で聞ける相手が分かる |
3つ目が効きます。「まとめておいて」と頼むと、まとめる時間が取れずに止まります。見て書き起こすのは推進側の仕事です。
4つ目には、削減できた工夫の出どころを残す意味もあるのです。誰の貢献かが分かる形にしておくと、次も出てきやすくなります。この点は削減できた時間は誰のものになるかで扱っています。
やめる基準を先に決める
指示文を集める取り組みは、続かなくなっても誰も止めません。作った人が言い出しにくいためです。着手前に決めておきます。
| 状況 | 確かめ方 | 判断 |
| 3か月で誰も追加していない | 更新日を見る | 業務に合っていない。対象を変える |
| 登録されているが使われていない | 利用記録を見る | 使われていないものを削除する |
| 更新の担当が決まっていない | 誰が直すかを聞く | 決まらないなら、集めるのをやめる |
| ツールを乗り換えることになった | 書き出せるかを確認する | 書き出せないなら、前提だけを外に残す |
2つ目の削除が要点です。使われていないものが並んでいると、使われているものも探しにくくなります。増やすより、減らすほうが効きます。営業の場面で何を残すかは、営業でAIを使うで具体的に扱っています。
よくあるご質問
指示文は、どこに保存するのがよいですか
すでに使っている共有フォルダか業務システムです。ツールの中に貯めると、乗り換えたときに持ち出せません。新しい置き場所を作ると、そこを見る習慣が無いために使われなくなります。
ツールを乗り換えたら、書き溜めたものは使えますか
指示文そのものは、多くの場合そのままでは通りません。ツールごとに前提が違うためです。持ち越せるのは、その業務で何を入力し、何を出力とするか、という前提の部分です。そこを本文と分けて残しておくと、書き直しが短くなります。
個人が持っている指示文を、どうやって出してもらいますか
全部を提出させると量が多くなり、整理する側で止まります。1業務あたり1つに絞って出してもらい、同じ業務の担当者に見せて違いがあるかを確かめる方法が現実的です。
使っているAIツールの管理画面を開き、登録した指示文を書き出せるかを確認します。書き出しの機能が見当たらなければ、その時点で外部のファイルに残す運用へ切り替えます。
あわせて、業務を1つ選び、その業務の前提(呼び方・様式・判断の基準)をA4で1枚書き出します。指示文より先に、これが要ります。
選ぶ業務は、社内で最も件数が多いものにします。件数が多い業務ほど前提が固まっており、書き出しやすくなります。逆に、年に数回しかない業務から始めると、前提が固まる前に忘れます。
1枚書けたら、同じ業務をしている人に見せて、違う点があるか聞きます。ここで食い違いが出た場合、それは指示文の問題ではなく、業務の手順が人によって違うということです。その状態でAIに任せると、誰の手順に合わせるかが決まらないまま出力が返ってきます。
手順が人によって違う場合の整理は業務標準化の進め方で扱っています。
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