生成AIを入れたが、一部の人が使っているだけで広がらない。この状態には、白書が段階として名前を付けました。従業員10〜20名で、導入後の広げ方に詰まっている担当者に向けて書いています。
先に結論
白書が示す段階は2つです。第一段階は、汎用AIを個人作業で使えるようにすること。第二段階は、業務プロセス全体をAI前提で変えることです。多くの会社が第一段階で止まります。止まる理由も書かれています。環境を整備しただけでは、一部の積極的な社員が使うだけで終わるためです。先進企業は、そこで止めずに活用事例の収集と社内展開、定期的なワークショップまで行っています。
従業員10〜20名の会社にワークショップは重すぎます。同じ効果を出す最小の形は、1業務ぶんの指示文のひな形を1つ作り、使った結果を測ることです。日清食品グループがこの方法で社内利用率7割超に達したと記載されています。
この記事で扱うこと
- 日本と他国で、AIに期待する効果がどう違うか
- 白書が示す2つの段階
- 第一段階で止まる理由と、白書が挙げている抜け方
- 10〜20名の会社での、最小の実行手順
日本は「効率化」に寄っている
生成AIの活用により生じうる影響を尋ねた設問の結果です。
| 回答 | 日本の割合 |
| 作業時間の短縮などによる業務の効率化 | 61.6% |
| 品質管理の精度向上やパーソナライズなどによる製品・サービスの質の向上 | 32.2% |
| 人員不足の解消 | 26.8% |
他の3か国(米国、ドイツ及び中国)では、「製品・サービスの質の向上」が最も高く、次に「作業時間の短縮などによる業務の効率化」、「技術継承やノウハウ共有の円滑化などによる従業員の専門的な経験・能力不足の緩和」と続きます。
白書は別の箇所で、日本では他の3か国に比べてAIを効率化ツールとしてとらえている傾向が見られた、と整理しています。一方、個別ヒアリングを実施した先進企業では、経営層が業務の効率化に留まらず業務の変革をもたらしうるものとしてAIを位置づけていた、という記述です。
白書が示す2つの段階
白書は、効果創出のステップを次のように整理しています。
| 段階 | やること | 白書の記載 |
| 第一段階 | 汎用AIを活用した個人作業の効率化 | 比較的安価で導入しやすい汎用AIを、社員の個人作業で活用することを組織的に浸透させ、AIの特性と適用可能な業務への理解を社内全体で深めていく |
| 第二段階 | 業務プロセス全体の変革 | 自社の経営戦略・経営方針に基づき人間と生成AIとの協業の在り方を検討・定義し、組織的な取組として業務プロセス全体をAI前提で変革していく |
順序が示されている点が重要です。いきなり第二段階へ行く形にはなっていません。まず個人作業で特性を理解する段階を置いています。
第一段階に必要なもの
白書は、第一段階について次を挙げました。ChatGPTやGeminiなどの汎用的な生成AIツールを導入することのみでも一定の効果を見込めるため、まずは少ない投資で、社員が安全に汎用的なAIツールを活用できる環境を構築することから開始することが考えられる、としています。
同時に、社員が個人の判断でAIを業務に使用するシャドーAIは、入力した機密情報の流出等のリスクを孕む、と記載されています。企業内に情報漏えい対策等を適切に施した生成AIの活用環境を整備し、あわせて利用時のルールやガイドラインを整備・周知することで、安全に活用できるようになる、という整理です。シャドーAIの把握はシャドーAI対策で、入力の線引きは生成AIに入力してはいけない情報で扱っています。
止まる理由が明記されている

白書は、汎用的なAIツールが導入されても一部の積極的な社員が活用するのみで、全社的な活用と効果創出に至らない可能性もあると記載しています。
先進企業は、生成AIの活用環境の整備で終わらせず、活用ユースケースの収集や社内展開、定期的なワークショップ開催など、具体的な活用シーンと効果を実感できるような活用促進策を実施することにより、会社全体への浸透を実現している、としています。つまり、導入と浸透は別の作業です。導入で終わった会社が第一段階に留まります。
日清食品グループの方法
白書が挙げている具体例です。生成AIの活用効果を見込める対象業務を部門ごとに選定した上で、プロンプトのテンプレート(ひな形)を作成し、AI活用効果を測定する取組を少しずつ社内展開していった結果、社内の生成AI利用率が直近では7割超に到達しているとされています。
手順に分解すると3つです。対象業務を選ぶ、ひな形を作る、効果を測る。大企業の事例ですが、この3つは人数に依存しません。
10〜20名での最小の実行手順
日清食品グループの手順で最初に来るのは、対象業務を部門ごとに選ぶ作業でした。ここを飛ばして「何にでも使ってよい」とだけ伝えると、使う人が自分で用途を探すことになり、結局は文章の言い換えのような軽い用途で止まります。先に候補を並べ、そのうち1つに絞るほうが早く進みます。
どの業務から選ぶか
候補になるのは、件数が多く、書く順序の型が決まっていて、間違いが出ても社外へ出る前に人が読む業務です。次の表は、この3つの条件に当てはまりやすい業務を部門ごとに並べたものになります。白書に書かれている分類ではなく、上の条件から本記事で組み立てた候補である点にご注意ください。
| 部門 | 候補になる業務 | この業務を選ぶ理由 |
| 営業 | 訪問後の報告メモと、次回日程の連絡文 | 件数が最も多く、書く順序がほぼ固定されている |
| 経理・総務 | 社内向けの案内文と、既存規程の改定案の下書き | 前例の文書が社内にあり、体裁をそろえる作業が中心になる |
| 人事・採用 | 求人票の下書きと、応募者への返信文 | 同じ説明を相手ごとに書き分けるため、ひな形の効き目が出やすい |
| 現場・制作 | 口頭で受けた手順の書き起こしと、引き継ぎメモの整形 | 話し言葉を読める形へ直す作業で、判断がほとんど入らない |
逆に、最初の1つに向かないのは、社外へそのまま出る契約文書と、根拠になる数値を自分で調べさせる業務です。前者は誤りが出たときの影響が大きく、後者は出力が正しいかの確認に時間がかかって、短縮したぶんが消えます。業務ごとの向き不向きの整理はAIに任せられる業務の見分け方で扱っています。
進め方
| 手順 | やること | 所要 |
| 1 | 最も件数の多い定型の文書作成を1つ選ぶ | 30分 |
| 2 | その文書について、要点を3項目まで書く形のひな形を作る | 1時間 |
| 3 | 作った人が1週間使い、かかった時間を記録する | 1週間 |
| 4 | 同じ業務をする人へ渡し、同じ結果になるか確かめる | 1週間 |
| 5 | ならなければ、ひな形に足りない前提を書き足す | 30分 |
測るのは1つでかまいません。時間ではなく、二人目が同じ結果を出せたかどうかのほうが、広げられるかの判断に直結します。
測り方は業務改善のKPI、二人目の確認は業務標準化で扱っています。
第二段階へ進む前に確認すること
白書は、第二段階に関わる要素として、人間とAIの役割分担の設計を先進企業が重要視していると記載しています。業務領域の特性や人間が負うべき責任の範囲を見極め、どのタスクはAIを人間の思考や判断の補助として用い、どのタスクはAIに自律的に実行させるべきかを検討している、という整理です。
また、生成AIには事実とは異なる情報を出力するハルシネーション、利用者に過剰に同調してしまうシカファンシーといった現象のほか、偏見やバイアスにつながる出力リスクも指摘されている、としています。
役割分担は人とAIの役割分担で扱っています。
この記事の限界
白書が個別ヒアリングを実施した先進企業は大企業が中心で、専門的なDX推進部門を持つ前提の記述が含まれます。従業員10〜20名の会社にそのまま当てはまるのは、段階の考え方と、止まる理由の部分までです。
実行手順の項は、白書の記載から必要な要素を取り出し、人数の少ない会社向けに構成したものです。白書にこの手順が書かれているわけではありません。
よくあるご質問
効率化を目的にするのは、間違いですか
間違いではありません。人手不足の会社にとって効率化は切実な課題です。ただし効率化だけを見ていると、空いた時間の行き先を決めないまま次の業務で埋めることになり、二度目の改善が起きにくくなります。
うちには推進部門がありません
部門ではなく役割の問題です。白書が挙げているDX推進部門の機能は、アイデアの創出、技術的アドバイス、効果測定、学習機会の設定です。人数の少ない会社では、このうち効果測定だけを誰かが担えば、止まらずに進みます。
ひな形を作っても使われませんでした
配った場所と、量を確認します。新しい保管場所を作ると見に行く習慣がないため使われません。また、複数のひな形を同時に配ると、選ぶ手間で止まります。1業務あたり1つに絞る形が現実的です。
出典
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」第Ⅰ部第2章第1節(生成AIの活用により生じうる影響、AI導入・活用を効果的に進めていくために重要となる要素、AI導入・活用による効果創出のステップ)2026年9月1日確認
自社が第一段階のどこにいるかを確認します。環境はあるが、使っている人が数えられる程度なら、導入で止まっている状態です。そこから先は、ひな形を1つ作るところから始まります。
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