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AIで仕事がなくなる、と社員に言われたら|話し合いをした会社は15.6%

AIを入れようとしたら、社員から「自分の仕事がなくなるのでは」と言われて止まっている。従業員10〜20名の会社の経営者向けです。労働者2.2万人の調査では、AI導入時に雇用主が話し合いを実施した割合は15.6%でした。不安が大きいのではなく、説明が行われていないと考えます。

AIで仕事がなくなる、と社員に言われたら|話し合いをした会社は15.6%

AIで事務作業を減らそう、と社内で切り出したところ、それでは自分の仕事がなくなるのではないか、という反応が返ってきた。従業員10〜20名で、情報システムの専任者はいない。そうした会社の経営者に向けて書いています。人を減らすつもりはないのに、そう受け取られてしまった。話をどう続ければよいのか分からず、導入の検討がそこで止まっている、という状況が前提です。

この記事で扱うのは、どの職業がなくなるかという予測ではありません。雇う側が社員へ何を、どの順で伝えるか、その中身を決めるところを扱います。労働政策研究・研修機構が労働者2.2万人へ行った調査では、AI導入時に雇用主が労働者等と話し合いを実施した割合は全体で15.6%でした。不安が大きいという以前に、話し合いの場そのものが持たれていない。数字はそちらを指しています。

先に、この記事で扱わないことを書きます。どの職業が何年後になくなるか、という将来の予測は書きません。よく引かれている推計を原典で確認できておらず、確認できていない数値は使わないためです。個人がどんなスキルを身につけるべきか、というキャリアの話も範囲の外に置きます。ここにあるのは、説明する側の準備だけです。

先に結論|不安の大きさより、話し合いが無いことのほうが問題

結論を先に書きます。問題は不安の大きさよりも、話し合いが行われていないことのほうにあります。公的な調査を二つ並べると、職を失うことへの不安は他の項目に比べて低いと記述されている一方で、AI導入時に話し合いを持った雇用主は全体の15.6%にとどまっていました。不安に火がついているのではなく、火をつけないための説明が省かれている状態に近いといえます。

そして従業員10〜20名の会社には、大企業のような受け皿がありません。仕事が変わった人を別の部門へ移す、という選択肢がそもそも取れないからです。用意できないものを約束すると、後で信用を失います。だから伝えられるのは、いまの仕事のどこがどう変わるか、という具体だけになります。

説明の前に決めておくことは3つあります。減った時間が誰のものになるのか。人員について、減らすつもりがあるのかないのか。そして、うまくいかなかったときにどこでやめるのか。この3つを自分の言葉で言えるようになってから社員の前に立つほうが、結局は早く進みます。

「なくなる仕事」の記事は、ほぼ全部が個人向け

「AIでなくなる仕事」で検索して出てくる記事を6本読みました。人材紹介会社、転職サイト、ツール比較メディア。多くはランキング形式で職業を並べ、最後は個人向けの対策で締めくくられます。スキルを身につけましょう、早めに動きましょう、という結びです。読者として想定されているのは、雇われている側の一人ひとりでした。

雇う側が読むものになっていない、というのがこの領域の空白です。社員から不安を向けられた経営者が知りたいのは、なくなる職業の一覧ではありません。明日の朝礼で何を言うか。その一文が、読んだ6本のどこにも書かれていませんでした。

根拠の古さも気になりました。ランキングの出どころをたどると、2013年の海外の研究と2015年の国内の推計に行き着きます。10年以上前の推計が、生成AIが広まった後の記事でもそのまま引かれ続けている。この記事では、その推計値そのものを書きません。原典を確認できておらず、確認できていない数値は使わない方針をとっているためです。

読者が知りたいこと個人向け記事の答え経営者に必要な答え
自分の仕事はどうなるのかこの職業は代替されやすい/されにくいこの作業がこう変わり、この確認は残る
何を準備すればよいかスキルを身につける、転職に備える減った時間の使い道と、人員の方針を決める
いつまでに動くか早いほうがよい試す期間と、やめる条件を先に決める
根拠はどこにあるか10年以上前の職業別推計を引く自社の業務時間の記録と、公的な調査

不安そのものは、他の項目より低いと書かれている

総務省の令和8年版情報通信白書は、生成AIに対する不安について個人へ尋ねた結果を載せています。そこで「自分の仕事がAIに代替され、職を失う」という項目の回答割合の合計は、他の項目より低いと記述されていました。同時に調査された他の3か国でも、同じ傾向だったとされています。

ただし、不安が消えたという話ではありません。同じ白書は、全ての項目で2024年度の調査より回答割合の合計が上昇していると書いています。不安の総量は増えていて、そのなかで職を失うことへの不安は相対的に低い位置にある。読み取れるのは、そこまでです。

この記事に割合の数字を書いていないのは、白書の本文に%が示されていないためです。数値は図表と別紙のCSVにあり、本文は「他の項目より低い」という定性的な記述になっています。引用できる形を超えて数字を作らないほうが、後で困りません。

気をつけたいのは、この結果が自社の社員に当てはまるとは限らない点です。調査は個人全体の傾向であって、目の前の一人の反応を説明するものではありません。使えるのは、社内の反応が特別に過敏なわけではない、という前提の置き方までだと考えられます。

資料読み取れること読み取れないこと
総務省 令和8年版情報通信白書職を失う不安は、他の不安項目より回答割合の合計が低い。全項目で前年度調査より上昇している自社の社員が不安かどうか。割合の具体的な数値(本文には記載がない)
JILPT 調査シリーズNo.256AI導入時に話し合いが行われた割合と、職場でのAIの広まり方話し合いをした職場で不安が下がったかどうか
10年以上前の職業別推計当時の手法で、作業の自動化可能性が検討されていたこといま何が起きるか。原典を確認していないため、この記事では数値を扱わない

話し合いは15.6%でしか行われていない

もう一つの資料が、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査シリーズNo.256です。労働者2.2万人へのWebアンケートで、AIが職場に入るときに何が起きたかを聞いています。ここに、この記事の題名へ置いた数字があります。AI導入時に雇用主が労働者等と話し合いを実施した割合は、全体で15.6%でした。

勤務先でAIが使われている人に限ると32.0%まで上がりますが、それでも3人に1人です。導入した会社でさえ、多くは話し合いを持たないまま入れていることになります。裏を返せば、話し合いを持つこと自体が、まだ珍しい行為だといえます。

同じ調査には、AIがどれだけ身近かを示す数字も出ています。有効回答2.2万人のうち、勤務先でAIが使用されていると答えた人は12.9%、自分がAIを利用していると答えた人は8.4%、自分が生成AIを利用していると答えた人は6.4%でした。職場でAIを見たことがない人のほうが、まだ多数です。

調査項目(JILPT 調査シリーズNo.256)割合何を数えた割合か
AI導入時に雇用主が労働者等と話し合いを実施した15.6%回答者全体に占める割合
同上(勤務先でAIが使用されている労働者に限る)32.0%AI使用企業の労働者に占める割合
勤務先でAIが使用されている12.9%有効回答2.2万人に占める割合
自身がAIを利用している8.4%同上
自身が生成AIを利用している6.4%同上

この二つを重ねると、社員の側の景色が見えてきます。多くの人にとってAIは職場で見たことがないもので、そこへ説明のないまま入ってくる。何が起きるか分からないものに対して「自分の仕事はどうなるのか」と考えるのは、むしろ自然な反応だと考えられます。だから、その反応を後ろ向きな抵抗として扱わないほうがよいといえます。

10〜20名では「配置転換」が使えない

大企業向けに書かれた記事は、たいてい配置転換を前提にしています。定型業務が減った分、その人には別の部門で新しい役割を担ってもらう、という筋書きです。10〜20名の会社では、この筋書きが最初から成立しません。移る先の部門が存在せず、一人が経理も総務も外注管理も見ている、というのが普通だからです。

この規模では、AIで作業が減っても人は余りません。減るのは一人が抱えている仕事の本数ではなく、一本あたりにかかる時間のほうです。担当を任された人が本業と兼務のまま進めることになる点は、AI導入の担当を任されたときで詳しく扱っています。説明のときも、この兼務という前提を隠さないほうが伝わります。

だから社員へ言えるのは「別の仕事を用意する」ではありません。言えるのは「いまの仕事のどこが変わるか」だけです。請求書の内容を手で打ち込む作業が読み取りに変わり、金額と取引先を目で確かめる工程は残る。この粒度まで下ろすと、相手は自分の一日を想像できます。

逆に届きにくいのは、生産性が上がる、創造的な仕事に集中できる、といった言い方です。悪い話ではないものの、聞いた側は自分の明日が変わったのかどうか判断できません。抽象的な言葉は、安心の材料にも判断の材料にもならないためです。

大企業向けの記事が置いている前提従業員10〜20名の実態そこで必要になる説明
余った時間は別部門への異動で吸収する移る先の部門がなく、全員が兼務している同じ人の中で、どの作業が減りどの作業が残るかを言う
人事制度と評価制度で処遇を調整する制度化されたものが少なく、経営者の言葉がそのまま方針になる口頭の一言が方針として扱われる前提で、言い方を決めておく
社員は転職市場を見て自衛できる採用が難しく、辞められると業務が止まる辞める前提ではなく、残る前提で役割の変化を話す

説明の前に決めておく3つ

一度の説明では、質問は変わらない(3 つの時点を並べた図)

社員の前に立つ前に、決めておくことが3つあります。どれも社内の話で、製品選びより前に片づく内容です。決めていないまま説明すると、その場の質問に答えられず、かえって不安を残します。逆にこの3つが決まっていれば、話し合いは10分程度で足ります。

一つ目は、減った時間が誰のものになるかです。空いた時間を別の作業で埋めるのか、残業を減らすのか、それとも本人の裁量に任せるのか。ここを決めずに導入すると、社員は「早く終わらせるほど仕事が増える」と学習します。この論点は削減できた時間は誰のものになるかで単独に扱っています。

二つ目は、人員についての方針を言葉にすることです。減らすつもりがないのなら、そう言う。言わなければ、社員は最も悪い想像で空白を埋めます。ただし将来を無条件に約束はできないため、いつの話をしているのかを添えて言うほうが誠実です。たとえば「今年度、AI導入を理由に人を減らす計画はない」という形になります。

なお、実際に人員や労働条件を変える段になれば、就業規則や労働契約の扱いが関わってきます。ここで書けるのは説明の順序までで、個別の可否までは判断できません。該当しそうな場合は、厚生労働省の資料や社会保険労務士など、原典と専門家にあたってください。

三つ目は、やめる基準です。試したものを止められるようにしておくと、社員から見た導入の重さが変わります。3か月続けても確認の手間が減らなければ元の手順に戻す、というように、期限と条件を先に決めておく。やめられる前提の試行は、反対する理由が小さくなります。

決めること社員に伝わる形にすると決めていないと起きること
減った時間の行き先空いた時間は、いまの残業を先に減らすために使う早く終えた人ほど仕事が増え、速さを隠すようになる
人員についての方針今年度、AI導入を理由に人を減らす計画はない沈黙が最も悪い想像で埋められ、噂として広がる
やめる基準3か月で確認の手間が減らなければ元の手順へ戻す始めたものを止められず、次の提案が出てこなくなる

この3つをA4一枚に書くと、説明の材料がそろいます。書き方の見本として、記入した状態を示します。下の数値は、考え方を示すための仮の値です。自社の実際の時間と期間に置き換えて使ってください。

項目記入例(数値は考え方を示すための仮の値です)この欄で答えていること
対象の作業請求書の受領から会計ソフトへの入力まで。月に約120件何が変わるのかを一つに絞る
変わる部分と残る部分手入力が読み取りに変わる。金額と取引先の目視確認は残す仕事が消えるのではなく、工程が入れ替わると示す
減った時間の行き先月に約8時間。まず月末の残業を減らすことに充てる空いた時間の使い道を先に決めておく
人員の方針今年度、この導入を理由に人員を減らす計画はない社員が想像で埋めてしまう空白をふさぐ
やめる基準3か月後、目視確認を含めた総時間が導入前を下回らなければ元へ戻す止められることを先に示す
決めた日と見直す日2026年9月4日に決め、12月の第1週に見直す口頭の方針を、日付のあるものにする

「仕事がなくなる」と「困っていない」は別の反応

社員の反応は、ひとまとめに「抵抗」と呼ばれがちです。しかし「自分の仕事がなくなる」と「いまのやり方で困っていない」は、別のことを言っています。前者は自分の立場についての不安で、後者は必要性そのものの否定です。同じ対応をすると、どちらにも届きません。

不安に対して機能の説明をしても、聞きたいこととずれます。必要性を否定している人へ雇用の話をしても、話がかみ合いません。「困っていない」と言われたときの扱いは「困っていない」と言われたときで別に扱っているので、見分けの参考にしてください。

社員の発言その裏にあるもの最初にすること
自分の仕事がなくなるのでは自分の立場についての不安人員の方針と、残る工程を具体的に言う
いまのやり方で困っていない必要性の否定。現状で回っているという判断困りごとではなく、時間の記録を一緒に見る
ミスが増えるのではないか品質への懸念と、責任の所在の不明さ確認の工程を誰が持つかを決めて示す
覚えることが増えて面倒だ学習の負担。時間の余裕がない最初は1業務に絞り、触る時間を業務時間内に取る

説明を尽くしたのに動きが出ない場合は、別の原因を疑います。導入したものが使われない状態には複数の型があり、不安とは関係のない理由で止まっていることもあります。その切り分けはAIを入れたのに使われないで扱っています。

よくあるつまずきと対処

ここまでの手順で、実際につまずきやすいところを並べます。どれも説明の中身より、順序と場の作り方に原因があるものです。原因が分かれば、対処はその日のうちにできます。右端の列には、次に取る行動だけを書いています。

つまずき主な原因対処
全員を集めて一度に説明したが、質問が出ない人数の多い場では、立場の弱い人ほど発言しづらい対象業務を担当している1〜2人と個別に話す
説明したのに、翌週には別の噂が回っている決めた方針が口頭だけで、日付も範囲も残っていない3つの決めごとをA4一枚にして配る
「試すだけ」と言ったのに警戒が解けない止めるときの条件が示されていないやめる基準と見直し日を先に伝える
賛成した人だけが使い、他は元の手順に戻る減った時間の行き先が決まっておらず、得が見えない空いた時間の使い道を決めてから配る
ベテランほど強く反対する手順が変わると、自分の熟練が価値を失うと感じている確認と例外判断の役割を明示して残す
経営者が話すと、その場では全員が納得する反対意見を出せない関係で、判断材料が集まらない後日、担当者から一人ずつ聞き取る場を分ける

よくあるご質問

AIで実際になくなる職業はありますか

この記事では、職業の単位でなくなる・なくならないという予測を書きません。よく引かれている推計は10年以上前のもので、原典を確認できていないためです。確かめられるのは、職業ではなく作業の単位で、手を動かす部分が置き換わっている場面が出てきているところまでです。自社について知りたい場合は、業務の記録を1週間取るのが近道だと考えられます。

人を減らすつもりが無い場合、そう言ってしまってよいのですか

言ってよいと考えられます。ただし、無期限の約束にしないことが条件です。「今年度は、AI導入を理由に人を減らす計画はない」のように、期間と理由を限定して伝えます。沈黙は最も悪い想像で埋められるため、限定つきでも言葉にしたほうが安全です。なお実際に人員や労働条件を動かす場合は、就業規則や労働契約の確認が必要になるため、原典と専門家にあたってください。

説明したのに反応が変わりません。どうすればよいですか

一度の説明で変わることは、ほとんどありません。言葉より、実際に触った経験のほうが効きます。対象業務の担当者と一緒に、その人が今週やった作業を30分だけAIに通してみる。自分の手元で結果を見た後は、質問の中身が「なくなるのか」から「どこまで任せるのか」へ変わっていきます。それでも動かない場合は、不安ではなく別の原因を疑うほうが早いといえます。

導入のハードルは何ですか

費用や製品の選定より、説明の準備のほうが先に来ます。3つの決めごとが空欄のまま製品を比べ始めると、社内の質問に答えられず、検討が止まりやすくなります。逆にこの3つが埋まっていれば、小さく試すところまでは進められます。ハードルは技術の側ではなく、決めていないことの側にあると考えたほうが実態に合います。

出典

まとめ|今週やること

今週やることは1つです。A4一枚に、減った時間の行き先、人員についての方針、やめる基準の3つを、自分の言葉で書いてみてください。社員に見せる前に、まず自分が書けるかどうかを確かめます。書けない項目があれば、そこがいまの説明で抜け落ちている場所です。

書けたら、対象業務の担当者1〜2人に10分だけ時間をもらい、その紙を見せながら話します。全員を集める必要はありません。話し合いを持った雇用主が15.6%という調査結果を踏まえれば、この10分だけでも、多くの職場では行われていない工程になります。

説明の中身をどう決めるか、どの業務から試すかといったところから相談を受けています。お問い合わせはこちらです。

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編集者K

技術確認: 編集者K/ 最終更新: 2026.09.04