AIを入れようという話は出ているのに、では何に使うのかという段で止まる。これは自社だけの状況ではなく、統計に出ている最も多い理由です。従業員10〜20名で、社内から具体案が出てこないまま検討が長引いている担当者に向けて書いています。
止まっている理由は費用でも人材でもない
2026年版中小企業白書は、省力化投資のうちAIを業務で活用していない理由を尋ねた結果を載せています。そこで最も回答割合が高かったのは「活用する業務がイメージできていない」でした。予算がないからでも、詳しい人がいないからでもありません。使いどころが見えていない、という段階で止まっています。
この違いは大きいものです。費用が理由なら、安い製品を探すか、補助金を待つことになります。人材が理由なら、採用か外注の話です。しかし使いどころが見えないのであれば、探し方を変えるだけで動き出す可能性があります。買う前に決着がつく問題です。
そもそも、動いている会社がどれだけあるのかも同じ白書に出ています。省力化投資としてAI活用に取り組んだ事業者は全体で約3割で、業種別に見ると情報通信業だけが高く、その他の業種は2〜3割程度の水準にとどまります。3社に2社はまだ着手していないため、周りに置いていかれているという焦りから急ぐ場面ではありません。
そして探し方には、うまくいかない型があります。自社の業務を最初から眺めて「どこかAIで置き換えられないか」と考える方法です。この順序だと、AIに何ができるかを知らないまま候補を挙げることになり、思いつかないのは当然の結果になります。
先に、他社が実際に使っている場所を見る

同じ白書に、その材料が載っています。AIの活用に取り組んだ事業者へ具体的な活用方法を自由回答で尋ね、テキスト分析した結果です。業種を問わず、「文書作成、要約、校正」と「業務自動化・効率化(RPA含む)」に関連する回答が多いという傾向が示されています。
業種によって出方が違う部分もあります。情報通信業では「プログラミング、コーディング支援」が、小売業では「広告、マーケティング、販促」が、他業種に比べて高く出ていました。つまり大半の業種では、まず文章まわりから入っているということです。
部門ごとの差も出ています。AI活用に取り組んでいる事業者へ部門別に尋ねた結果では、「営業・販売・顧客対応部門」と「バックオフィス部門」が、「製造・生産管理・物流部門」に比べて「活用している」と回答した割合が高いという傾向でした。どの部門でも「必要性を認識しているが、活用には至っていない」と答えた事業者が一定程度いる、という点は共通しています。
| 探す部門 | 白書に出ている傾向 | うちで最初に見るもの(例) |
| 営業・販売・顧客対応 | 「活用している」割合が製造・生産管理・物流より高い | 見積の送付状、提案書、問い合わせへの返信 |
| バックオフィス | 同じく製造・生産管理・物流より高い | 議事録、報告書、社内向けの連絡文 |
| 製造・生産管理・物流 | 上の2部門より低い。ただし必要性は認識されている | 作業手順書、日報のうち文章で書く部分 |
右の列は白書に載っているものではなく、左と中央の傾向を自社の業務名へ置き換えた例です。営業とバックオフィスの文書から先に見ると、他社が実際に手を付けた場所と重なります。製造や物流を対象外にするという話ではありません。見る順番の問題です。
この事実を先に置くと、探し方が反転します。自社の業務を眺めるのではなく、「うちで文書を作っている時間はどこにあるか」を数えるところから始められます。答えの範囲が決まっているので、候補は出てきます。
文書を作っている時間を数える
難しい調査は要りません。1週間、社内の誰かが文章を書いた場面を書き留めるだけです。見積の送付状、議事録、報告書、問い合わせへの返信、社内向けの連絡。書いた人と、かかったおおよその時間を並べます。
| 書いたもの | 確認すること | AIの射程に入るか |
| 毎回ほぼ同じ形の文書 | ひな形があるか、毎回ゼロから書いているか | 入る。最も効きやすい |
| 内容は違うが構成は同じ文書 | 要点を3つ書き出せるか | 入る。要点を先に決めてから渡す |
| 相手ごとに判断が変わる文書 | 判断の理由を人が説明できるか | 部分的。下書きまで |
| 書く前に調べる時間のほうが長いもの | 調べ先が社内か社外か | 入らない。文書の整理が先 |
1週間分を並べると、たいてい上から2行に該当するものが見つかります。それが最初の対象です。件数が多く、形が決まっているものを選びます。珍しい業務を選ぶと、効果が出ても他へ広がりません。
研修をした会社としない会社で、評価が違う
白書はもう一つ、判断に関わる結果を示しています。従業員のAI活用促進に向けた研修会や勉強会の実施状況別に、AI活用の評価を確認したところ、研修会や勉強会に取り組んでいる事業者のほうが「想定を超える効果が得られた」「想定した効果が得られた」と回答した割合が高かったという結果でした。
白書はここから、AI活用にあたっては研修会や勉強会も併せて実施することが重要であると示唆しています。使いどころが見えない状態と、この結果は地続きです。何ができるかを知らなければ候補は挙がらず、候補が挙がらなければ効果も出ません。
10〜20名の会社に研修制度は作れませんが、代わりになるものはあります。最初に見つけた1業務について、実際に使ってみせる時間を30分取る。それだけで、次の候補は他の人から出てくるようになります。教える内容ではなく、見せる場があるかどうかの問題です。教育の位置づけは従業員へのAI研修で扱っています。
候補が出てからの絞り方
候補が複数出てきたら、件数の多さで選びます。月に1回の業務を効率化しても、体感は変わりません。週に何度も発生していて、担当が決まっていて、形が同じもの。この3つが揃うものから始めます。
何を効果とみなすかも、白書の結果が参考になります。AIを活用する目的を尋ねた結果では「業務時間の節減」が8割を超え、次に「人手不足の解消」「業務の属人化解消」が続きました。つまり大半は、時間が減ったかどうかで判断しています。候補を比べるときは、1回あたりの時間と月の件数を掛けた数字を横に置いてください。
逆に外すべきなのは、出力が正しいかを人が判定できない業務です。誤りに気付けないまま速くなると、間違いが行き渡る速度だけが上がります。判定の可否はAIの回答が正しいかを確認するで扱っています。
この記事の範囲
白書が示しているのは、活用していない理由の分布と、活用している事業者の使い方の傾向です。どの業務にAIを使えば効果が出るか、という因果までは示されていません。1週間の記録から候補を出す手順は、白書の傾向を自社へ当てる方法としてこちらで構成したものです。白書に書かれているわけではない、という点にご注意ください。
よくあるご質問
他社の使い方を真似ても、うちに合わないのでは
合わない場合はあります。ただし白書の結果は特定の1社の事例ではなく、業種をまたいだ傾向です。文書作成の仕事はどの会社にもあり、そこから入る会社が多い、という事実として使えます。合うかどうかは1週間の記録で確かめられます。
記録を取る時間が惜しいのですが
書き留めるのは、書いたものの名前と、かかった時間の2つだけです。1日あたり数分で済みます。この記録が無いまま製品を比べ始めると、比較の基準が決まらないため、かえって時間がかかります。
見せる場を作っても、興味を持つ人がいません
題材が本人の業務でない場合に起きます。他部署の例ではなく、その場にいる人が今週実際に書いた文書を題材にします。自分の仕事が短くなるところを見れば、反応は変わります。
出典
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書」第2部第2章第2節 労働投入量の最適化 2026年9月9日確認
今週の記録から始める
共有のメモを1枚作り、文章を書いた場面だけを書き留めます。1週間分あれば、上の表の2行目までに当たるものが見つかります。見つからなければ、自社の時間は文書ではなく別のところに使われている。それも一つの発見です。
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