解説

AI法は2025年9月に全面施行された|中小企業がいま確認すべきことと、確認しなくてよいこと

AI法(AI推進法・AI新法)が施行されたと聞いて、届出が要るのかと身構える必要はありません。条文に罰則はなく、日本の枠組みはガイドラインによるソフトローが中心です。何が法律で、何がガイドラインで、中小企業が実際に見る箇所はどこかを整理しました。

AI法は2025年9月に全面施行された|中小企業がいま確認すべきことと、確認しなくてよいこと

AI法という言葉が出てきたときに最初に知りたいのは、自社に義務が生じるかどうかです。従業員10〜20名で、社内のAI利用ルールを任されている担当者に向けて書いています。

先に結論

日本のAI法は、違反したら罰則という形の法律ではありません。令和8年版情報通信白書は、日本の取組を「イノベーション促進とリスク対応の両立」を徹底するものと位置づけ、ガイドラインを通じたソフトローによるガバナンスに取り組んできたと記載しています。中小企業が読む先は、法律の条文ではなく各府省庁が出しているガイドラインの側です。そこで求められているのは、届出や認証ではなく、自発的かつ能動的な取組です。実務としてやることは1つに絞れます。社内でAIを使う人が、何を知っておくべきかを決めて、伝えること。AI事業者ガイドラインが各主体に期待しているのは、この教育の部分です。

この記事で扱うこと

扱うのは4点です。AI法・AI基本計画・指針・ガイドラインがどう並んでいるか、中小企業に義務が生じるのか、ガイドラインが期待すると書いている内容は何か、そして社内で何を決めれば対応したと言える状態になるか。条文の逐条解説ではなく、担当者が社内で説明できる粒度に落としています。

何が、いつ決まったのか

AI法は通称です。e-Gov法令検索に登録されている正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和七年法律第五十三号)で、公布は2025年6月4日、施行は2025年9月1日と記録されています。AI推進法、AI新法という呼び名も使われますが、指しているものは同じ法律です。次の表は、令和8年版情報通信白書に記載された経緯へ、e-Gov法令検索で確認した日付を重ねたものです。

時期決まったもの確認できる場所
2025年5月AI法の制定令和8年版情報通信白書
2025年6月4日公布(令和七年法律第五十三号)e-Gov法令検索
2025年9月1日全面施行e-Gov法令検索
2025年12月AI基本計画の閣議決定令和8年版情報通信白書
2025年12月人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針令和8年版情報通信白書
2026年3月31日AI事業者ガイドライン 第1.2版の公表総務省の掲載ページ

白書は、これらの下で、人とAIが絶えず協働できるよう、個人の尊厳が尊重される人間中心のAI社会を堅持しつつ、「信頼できるAI」を追求していくこととしている、と記載しています。

ソフトローという枠組み

白書は、日本がAI法の制定等の以前から、進化の速度が速いAI技術の特性を踏まえ、イノベーションの推進を妨げないよう、各分野の実情に応じ、ガイドラインを通じたソフトローによるガバナンスに取り組んできたと記載しています。

そのうえで、国内のガイドラインはAI法の制定やAI基本計画の決定以降も、これらと整合しながら各分野の特性を踏まえた具体的な指針を示すものとして位置づけられ、AI研究開発機関やAI活用事業者等に対し、自発的かつ能動的な取組を行うよう促しているとしています。ここが実務上の要点です。促すという書き方であり、届出や認証の仕組みではありません。

条文の側も見ておきます。事業者に直接関係するのは第7条(活用事業者の責務)です。人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者は、基本理念にのっとり、自ら積極的な活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、国と地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない、と書かれています。努める、協力しなければならない、という定め方で、従わなかった場合の効果は条文に置かれていません。

本則は第28条までと附則で構成されていますが、全文を通して罰金・懲役・過料といった罰則の規定は一つも置かれていません。罰が無いことと、放っておいてよいことは別です。第16条は、不正な目的または不適切な方法による研究開発や活用にともなって国民の権利利益の侵害が生じた事案を国が分析し、その結果に基づいて活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる、としています。罰は無いが、国が指導と助言を行う経路は用意されている。これがこの法律の構えです。

よくある誤解白書の記載から読み取れること
施行されたので届出が必要白書に届出制度の記載はない。求められているのは自発的かつ能動的な取組
違反すると罰則がある法律の条文に罰金・懲役・過料の定めはない。ただし第16条が、国による指導、助言、情報の提供を定めている
大企業だけの話AI活用事業者等に対して促す、とされており、規模で区切られていない
何もしなくてよい教育を行うことが期待される、と明記されている

ガイドラインが「期待する」と書いている内容

白書は、総務省・経済産業省が策定する「AI事業者ガイドライン」から次を引用しています。各主体は、主体内のAIに関わる者が、AIの正しい理解及び社会的に正しい利用ができる知識・リテラシー・倫理観を持つために、必要な教育を行うことが期待される。

また、各主体は、AIの複雑性、誤情報といった特性及び意図的な悪用の可能性もあることを勘案して、ステークホルダーに対しても教育を行うことが期待される。

従業員10〜20名の会社にとって、研修制度を作る話ではありません。AIが誤った内容を出すこと、それを人が確認すること、この2つが社内で共有されていれば、この期待に対する最小限の応答になります。

総務省が入門資料を出している

白書は、ガイドラインではないものの、総務省が「生成AIはじめの一歩 ~生成AIの入門的な使い方と注意点~」を公表していることを紹介しています。生成AIの基礎知識、活用場面や入門的な使い方、活用時の注意点を扱う資料です。

自社で教材を作る前に、公的機関が公開している資料を配るところから始められます。社内で作った資料は更新が止まりますが、公的資料は改訂されていきます。

総務省のAI事業者ガイドライン掲載ページには、第1.2版(2026年3月31日公表)の本編と別添が置かれ、別添7としてチェックリストとワークシートが公開されています。社内の点検表を白紙から起こす必要はありません。自社に関係する行だけを残して配れば、様式を考える時間はまるごと省けます。

対応したと言える状態にするために決めること

決めておくことと、義務づけられていないこと(内側 3 項目・外側 3 項目の範囲図)

3項目です。文書にして、社内で見られる場所に置きます。

決めること書き方の例決めないと起きること
AIが誤った内容を出しうること生成AIの出力は誤りを含みます。そのまま社外へ出しません出力をそのまま転記した文書が社外に出る
誰が確認するか社外に出す文書は、作成者以外が内容を確認します確認者が決まらず、確認したことにされる
入力してよい情報の範囲顧客名、個人情報、未公表の見積は入力しません人によって線引きが違う

入力の線引きは生成AIに入力してはいけない情報で、確認の負荷は人とAIの役割分担で扱っています。

この記事で扱っていないこと

AI法の条文そのもの、および個別の業種に固有の規制は扱っていません。白書に記載されているのは制度の位置づけと経緯までで、条文の解釈は含まれていないためです。

また、海外向けに製品やサービスを提供している場合、日本の枠組みとは別に、提供先の国の規制が関わります。その判断は法務の領域で、この記事の範囲外です。

よくあるご質問

施行済みなのに、何もしなくて問題ないのですか

白書に記載された枠組みは、届出や認証を求めるものではありません。ただしAI事業者ガイドラインは、AIに関わる者への教育を行うことが期待される、と明記しています。何もしない状態は、期待されている取組をしていない状態にあたります。

社内ルールは、どのくらいの分量が必要ですか

分量ではなく、誰が確認するかが書かれているかで決まります。1ページに、出力を確認する人と、入力してはいけない情報の3項目が書かれていれば、運用は始められます。長い規程は読まれないため、守られていない状態になります。

ガイドラインは、どこを見ればよいですか

白書の第Ⅰ部第3章第3節に、AIに関する各府省庁等のガイドライン等の一覧が図表として掲載されています。自社の業種に関係するものが含まれているかを、そこで確認できます。

AI推進法、AI新法と書かれているものとは別の法律ですか

同じ法律を指しています。正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」で、AI法・AI推進法・AI新法はいずれも通称です。e-Gov法令検索は、この法律の略称として「AI法」を登録しています。呼び名の違う解説を読み比べても、参照している条文は同一のものです。

出典

上の3項目を1ページにまとめます。すでに社内ルールがある場合は、誰が確認するかが書かれているかだけを見ます。書かれていないルールは、運用時に確認する人が決まりません。

自社の状況に合わせた整理から相談できます。お問い合わせはこちらです。

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編集者K

技術確認: 編集者K/ 最終更新: 2026.09.08