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AI推進体制の作り方|専任者を置かずに、決めごとで設計する

専任チームは不要ですが、決めておくことはあります。推進・利用・確認・事故対応の4つの役割、兼任者の時間の確保、1人に集中させない条件、外部の使いどころ、体制が機能していない兆候と引き継ぎ方をまとめました。

AI推進体制の作り方|専任者を置かずに、決めごとで設計する

この記事は、AIの活用を社内で進めるにあたり、誰が何を担うかを決めたい中小企業の経営者とAI推進担当者に向けたものです。中小企業に専任チームは不要、経営者が兼務でよい、という説明は各所で見られます。これはそのとおりです。ただし「専任は不要」で話が終わると、結局誰も何も決めない状態になります。この記事では、人を置く話ではなく、決めておくことの話をします。組織図を作る必要はありません。

結論

AI推進体制に専任者も組織図も必要ありません。推進・利用・確認・事故対応の4つの役割を決め、最小構成の2名を明示し、推進担当に週2時間を確保する。これで体制は動きます。

専任チームは不要。ただし「決める人」は必要

要るものと、要らないもの(内側 3 項目・外側 3 項目の範囲図)

10〜20名の会社でAI推進の専任者を置くのは現実的ではありませんし、必要でもありません。問題は、専任者がいないことではなく、次のような状態です。新しいサービスを使いたいとき、誰に言えばよいか分からない。使ってよいか判断に迷ったとき、聞く先がない。問題が起きたとき、止める判断を誰がするか決まっていない。誰も見ていない状態で、各自が自由に使っている。この4つが起きます。これらは人員の問題ではなく、決めごとの不在です。人を増やさずに解消できます。

東京商工リサーチが2026年3月31日から4月7日にかけて実施し、有効回答6,327社を集計した調査では、中小企業の組織的な生成AI活用(「会社として活用を推進」と「部門によっては活用を推進」の合計)が32.3%(1,899社)となり、2025年8月調査の23.4%から8.9ポイント上がりました。一方で中小企業の最多回答は「方針は決めていない」の38.7%(5,872社中2,276社)で、いまも4割近くが入口に立っていません。組織的に使う会社は増えていますが、多数派はまだ決めていない側にいます。

同社が2025年8月時点で実施した調査(有効回答6,645社)では、活用を推進していない理由の最多が「推進するための専門人材がいない」の55.1%(4,358社中2,403社)、次いで「活用する利点、欠点を評価できない」が43.8%(1,912社)でした。2番目に多いこの回答は、人材の不足ではなく、判断する人と基準が決まっていない状態を指しています。専門人材を採る前に、決めごとの空白を埋めるほうが先です。

決める4つの役割

AIの推進体制を調べると、「AI推進室」や「AI CoE(Center of Excellence)」という言い方によく行き当たります。どちらも、戦略の決定、ルールの整備、教育、うまくいった使い方の横展開までをまとめて持つ器を指す言葉です。10〜20名の会社にこの器は作れませんが、器の中にある機能そのものは分けて持てます。次に挙げる4つの役割は、その機能を人数の少ない会社向けに置き換えたものだと考えてください。

役職ではなく、機能として4つを決めます。同じ人が複数を兼ねて構いません。

役割決めること・やること決まっていないと起きること
推進どの業務で使うかを決める。新しいサービスの導入可否を判断する各自が判断して使い方が広がる
利用実際に使う。決められた範囲を守る対象外の業務へ流用される
確認出力を確認し、業務へ反映してよいと判断する。あわせて、AIが参照できるデータの範囲が適切かも見る未確認の内容が社外へ出る
事故対応問題が起きたときに止める判断をし、報告する気付いても誰も止められない

最小構成は2名です。推進と事故対応を経営者または部門責任者が担い、確認を対象業務の担当者が担う。利用は使う人全員です。この2名が決まっていれば体制は成立します。1名にしません。使う範囲を決める人と、その結果を確認する人が同一だと、判断の誤りに気付く機会がなくなります。役職や専門知識は問いません。別の人が見るという構造だけが必要です。

教育は5つ目の役割にせず、推進が兼ねます。全社への周知と、推進担当自身が学ぶことは別物です。前者は使ってよい範囲と相談先を伝えれば足りますが、後者には時間の確保が要ります。社外の研修を使う場合、厚生労働省の人材開発支援助成金には事業展開等リスキリング支援コースがあり、事業展開を伴わない場合でも、企業内のDX化を推進していくために必要な人材の育成が対象へ含まれます。助成率と上限額は訓練の実施方法や企業規模で変わるため、実施前に都道府県労働局へ確認してください。

役割を割り当てる例

従業員15名、経理と総務を1名が兼務、IT担当なしという会社を想定します。割り当ては次のようになります。

役割担当実際にやること
推進社長使う業務の追加を決める。新サービスの導入可否を判断する
利用各部門の使う人決められた範囲で使う。迷ったら総務へ聞く
確認総務担当週1回、失敗と例外の記録を見る
事故対応社長(不在時は総務担当)止める判断をする。取引先への連絡要否を判断する

実質2名です。総務担当が確認と事故対応の代理を兼ね、社長が推進と最終判断を担う形です。組織図も会議体も作っていませんが、4つの役割はすべて埋まっています。「不在時は誰か」を書いておくことが要点です。これがないと、判断する人が休みの日に問題が起きたとき、誰も止められません。代理を1名決めるだけで、この穴は塞がります。

兼任者の時間をどう確保するか

兼任で進める場合の最大の問題は、通常業務に押されて何も進まないことです。役割を決めても、時間が確保されていなければ動きません。目安として、推進を担う人に週2時間を確保します。多くはありませんが、時間を明示しないと確実にゼロになります。

確保する時間使いみち
週2時間(推進)検討、社内からの相談への回答、記録の整理
週15分(確認)失敗した処理と例外の確認
月1回30分推進と経営層で状況を共有し、範囲の変更を判断する

時間を確保する方法は1つです。その人の既存業務を何か減らすこと。「空いた時間でやってほしい」という依頼は、実質的に何も依頼していないのと同じです。何を減らすかを一緒に決めます。

1人に集中させない

少人数の会社では、詳しい人1名にすべてが集中しがちです。短期的には速く進みますが、その人が異動、退職、長期休暇に入った時点で止まります。集中を避けるために、次の3つだけは複数名が分かる状態にします。契約しているサービスの一覧と、管理者アカウントの所在。止め方、つまりどの画面でどう操作すれば止まるか。決めた範囲を書いた文書の置き場所です。特に1番目が重要です。管理者アカウントが個人アカウントのままだと、その人の退職後に設定変更も解約もできません。管理者は2名にします。

推進担当に向く人

推進担当を選ぶとき、社内でいちばんITに詳しい人を選びがちです。必ずしも適任とは限りません。次の3つのほうが重要です。

条件理由
業務の中身を理解している対象業務の選定と、出力の妥当性の判断ができる
他部門に聞ける関係がある実態の把握と、困りごとの収集が進む
決める人に直接相談できる判断待ちで止まらない

ITの知識は後から補えますが、業務理解と社内の関係は補えないのです。技術的な部分は外部に相談できますが、「この出力は自社の業務として妥当か」は社内の人にしか判断できません。逆に避けたほうがよいのは、通常業務がすでに限界まで詰まっている人です。適性があっても時間が確保できなければ動きません。時間を空けられるかどうかも、選定条件に入れます。

外部をどこに使うか

社内に知見がない領域は外部を使えます。ただし外に出せるものと出せないものがあります。

領域外部に依頼できるか
どの業務を対象にするかの判断相談はできるが、決めるのは社内
ルールや手順の文案作成依頼できる
設定作業、技術的な構築依頼できる
日々の出力の確認依頼できない。業務内容を知る人でないと判断できない
問題が起きたときに止める判断依頼できない
社員への説明と教育依頼できるが、社内の事例を使わないと定着しにくい

外部に依頼できないのは、業務内容の理解が前提になる判断です。ここを外に出そうとすると、判断が遅れるか、実態に合わない判断になります。作業を外に出し、判断は社内に残します。

外部への費用に使える補助金

外部支援の費用相場は、公開された一次情報で確認できませんでした。よく目にする金額は出典が示されておらず、そのまま持ち出しても社内の合意の根拠になりません。この記事では相場を書かず、公的な制度で補助の対象になる費目と上限だけを挙げます。デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠は、次の範囲です。

制度補助率補助額補助対象に含まれる役務
デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠1/2以内(一定の要件を満たす場合は2/3以内)1プロセス以上で5万円以上150万円未満、4プロセス以上で150万円以上450万円以下導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート

補助率が変わる要件と、対象になる経費の詳細はデジタル化・AI導入補助金の通常枠の案内に記載があります。ソフトウェアの購入費やクラウド利用料だけでなく、上の表の役務まで対象へ入っている点が要点です。外部へ払う費用の一部は制度で戻せますが、決める仕事そのものは補助でも外注でも代われません。

体制が機能していない兆候

決めた後も、次の兆候が出たら見直します。いずれも、体制が形だけになっているサインです。

兆候示していること見直す点
相談がまったく来ない相談先が知られていない、または回答が遅い周知と、回答の目安時間
推進担当が何も進めていない時間が確保されていない既存業務を減らす
確認が形式的になっている確認対象が多すぎる失敗と例外だけに絞る
把握していない利用が見つかる使いたいときの経路がない申請先を1つ決めて周知する
月次の共有が続かない共有する内容が決まっていない利用状況、困りごと、次の判断事項の3点に固定する

兼任者が潰れる前に気付く

兼任体制の失敗は、担当者が辞めるか、体調を崩すか、静かに手を止めるかの形で現れます。いずれも直前まで見えません。次の兆候が出たら、範囲を減らします。

兆候起きていること対応
週2時間が確保できていない月が続く通常業務に押されている既存業務を減らす。減らせないなら推進を止める
月次の共有が延期される報告する内容を作る余裕がない共有の項目を3点に固定する
相談への回答が遅れ始めた処理量が能力を超えている対象業務を減らす
新しいサービスの検討が止まっている現状維持で手一杯現状維持で問題ない。検討は延期してよい
本人が「大丈夫です」としか言わなくなった相談しても解決しないと学習している範囲を減らす提案を、こちらから出す

最後の行が最も危険です。「大丈夫です」という返答は、状況が良いことを意味しません。相談しても業務が減らないと分かると、人は相談をやめます。範囲を減らす提案は、本人からではなく決める側から出します。

4行目については、対応が不要である点を明記しておきます。新しいサービスの検討が止まっていても、今の運用が回っていれば問題ありません。止まっていることを問題視すると、必要のない負担が増えます。

範囲の減らし方

新しい対象業務の追加を止めます。効果が大きく、すぐできる手です。確認の頻度を毎日から週1回にする。月次の共有を隔月にします。対象業務のうち、効果の小さいものを1つ外す。

1番目から順に試します。追加を止めるだけで、多くの場合は負荷が戻ります。それでも解消しない場合に、2番目以降を検討します。

引き継げる状態にする

兼任体制は人の入れ替わりに弱くなります。次の4点を1か所にまとめておけば、担当が変わっても再開できます。

4つの役割を誰が担っているか。使ってよいサービスと、入力してよい情報の範囲。契約しているサービスの一覧として、契約主体、費用、更新日、管理者。これまでに決めたことと、未決のことを書き出します。

最後の項目が抜けると、後任は最初から検討をやり直します。決定事項と未決事項を分けて書いておきます。

ルールの項目立ては生成AIの社内ルールに必要な項目、入力してよい情報の範囲と台帳の作り方は生成AIの情報漏えいを防ぐ社内運用の作り方で扱っています。

体制を決める順序(3か月)

一度にすべてを整える必要はありません。3か月を目安に、順に決めていきます。

時期決めること所要時間の目安
1か月目4つの役割の担当と代理。相談先とその周知会議1回(60分)
1か月目推進担当の週2時間の確保と、減らす業務の特定個別に30分
2か月目使ってよいサービスと、入力してよい情報の範囲会議1回(60分)と文書化
2か月目契約サービスの一覧化と、管理者の2名化実作業2〜3時間
3か月目確認の運用開始(週1回、失敗と例外のみ)毎週15分
3か月目月次共有の開始(利用状況・困りごと・判断事項)毎月30分

会議は合計2回で足ります。体制づくりに時間をかけすぎません。決めながら運用し、必要になったら直すほうが、机上で完成させるより速く安定します。

体制が決まる前に一人で担当を任された場合はAI導入の担当を任されたで、引き受ける範囲の決め方を扱っています。

推進する側が担っている機能

令和8年版情報通信白書は、先進企業の多くにおいて、事業部門の現場における個別のニーズや課題意識を検討の起点としており、そこにAI活用を推進するDX推進部門が、具体的なアイデアの創出、AI導入に際しての技術的アドバイスやセキュリティ対策、効果測定のほか、AIスキル等の学習や知見共有を受けられる機会の設定といった伴走支援を担当していた、と記載しています。

各社に共通する理由として、現場が抱える具体的な業務課題やニーズ、詳細な業務プロセスに対してAIを適用することによって、真に価値を創出できるためとしています。

同白書は、先進企業が効果の創出とリスク対策を両立させるために整えている全社的な仕組みを、組織体制、技術的な環境ならびにデータの整備、人材育成、ルール・ガバナンス体制の整備の4つに分けて記載しています。データへのアクセス権限については、部門や職階によってアクセスすべきでない情報を出力することがないよう、AIが参照するデータの範囲を絞って利用可能にするなどの対策がとられている、とあります。確認の役割に出力だけでなく参照範囲を含めたのは、この記述を踏まえたものです。4つのうち、この記事がどこを扱っているかを整理しました。

白書が挙げる要素この記事での扱い
組織体制「決める4つの役割」で、推進・利用・確認・事故対応として扱う
人材育成「推進担当に向く人」と、推進が教育を兼ねる項で扱う
ルール・ガバナンス体制の整備生成AIの社内ルールに必要な項目の記事へ送る
技術的な環境ならびにデータの整備この記事の対象外

人数の少ない会社に部門は作れません。ただし機能は分けられます。このうち効果測定だけを誰かが持てば、止まらずに進みます。体制を作る前に経営者が決める数字は、経営者がAIについて学ぶべきことで扱っています。現場から反応が返ってこない段階の見分け方は「困っていない」と言われたときにまとめました。

出典

よくあるご質問

推進担当は役職者でないと務まりませんか

役職より、業務の実態を知っていることと、経営者へ直接報告できることのほうが重要です。役職がない場合は、報告経路を明示的に用意します。経路がないと、判断が必要な事案が現場で止まります。

兼任者に手当を出すべきですか

手当より先に、既存業務を減らすことを検討します。時間を確保せずに手当だけ出すと、残業で吸収されて続きません。減らせない場合に、その負担へ報いる手段として手当を考える順序になります。

外部のコンサルタントに推進を任せられますか

設計と立ち上げは任せられますが、判断と運用は社内に残します。外部が抜けた時点で止まる体制は、投資が資産になりません。契約時に、社内の誰へ引き継ぐかを決めておきます。

AI推進室のような専任部署は作るべきですか

10〜20名の会社では、器を作るより機能を埋めるほうが先です。部署の名前を決めてから中身を考えると、看板だけがあって誰が何を判断するのかは空いたままになりがちです。推進、利用、確認、事故対応の4つが埋まっていれば、名称は要りません。人数が増えて相談の量を1人で扱えなくなった時点で、はじめて器を検討します。

社内にAIに詳しい人が1人もいない場合はどうしますか

詳しい人ではなく、業務を理解している人を推進に置きます。技術的な設定や構築は外部へ出せますし、ルールの文案づくりも頼めます。一方で、日々の出力が自社の業務として妥当かの確認と、問題が起きたときに止める判断は外へ出せません。この2つだけを社内に残せば、AIの知識がない状態からでも体制は立ち上がります。

今週着手するなら、4つの役割に名前を割り当てるところまでです。兼任で構いません。あわせて、推進担当のどの業務を減らすかも決めます。時間の確保がない役割分担は、決めていないのと同じです。

AIを前提とした業務再設計という全体像での位置づけはAXとは何かを参照してください。

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編集者K

技術確認: 編集者K/ 最終更新: 2026.09.05