実務ガイド

属人化を解消する業務棚卸しの進め方

属人化とは何か、なぜ起きるかを整理した上で、解消の進め方を示します。残してよい属人化の線引き、着手順を決める3つの軸、一巡の所要と体制、そして「二人目が同じ結果を出せるか」という完了判定までを扱います。

属人化を解消する業務棚卸しの進め方

この記事は、従業員10〜20名程度で、特定の人が抜けると止まる業務を抱えている会社に向けたものです。部門が1〜2名で、担当者にヒアリングしようにも本人以外に知る人がいない状況を前提にしています。

属人化の手順を解説した記事はすでに多くあります。この記事が扱うのは、そこに書かれていないどこから手を付け、どこで終わるかです。表の書き方やマニュアルの作り方は、それぞれの詳細記事へ渡します。

結論

属人化の解消で難しいのは手順ではなく、対象と終わりを決めることです。残してよい属人化を先に決め、停止時の影響・担当者の残存期間・代替の難しさで着手順を判定し、二人目が同じ結果を出せた時点を完了としてください。

属人化とは何か、なぜ起きるか

属人化(ぞくじんか)とは、業務の進め方や判断の基準を特定の一人しか把握していない状態を指します。手順書が無いことだけを指す言葉ではなく、書かれていても実際の判断がその人の頭の中にある場合は同じ状態です。従業員10〜20名の会社では部門が1〜2名で回っているため、誰かが意図しなくてもこの形になります。

専門性が高いことと属人化は同じではありません。判断の根拠を他の人が後から確認できるなら、担当が一人でも引き継ぎは成立します。逆に、誰にでもできる単純な作業であっても、資料の置き場所と例外時の扱いが共有されていなければ属人化しています。分ける基準は、担当者以外がその判断を再現できるかの一点です。

原因は3つに分かれます。この分け方が必要なのは、棚卸しで扱える原因と、棚卸しでは扱えない原因が混ざっているからです。次の表の3行目は、表の様式をいくら整えても動きません。

起きる原因この規模で現れる形棚卸しで扱えるか
手順が書かれていない日常業務が優先され、記録を残す時間が取れない扱える。対象を絞れば書き出せる
判断の条件が言葉になっていない経験で判断しており、本人も説明できない扱える。引き継ぐ人に作業させて書き出す
担当者が共有したがらない立場や評価への懸念があり、聞いても手順が出てこない扱えない。処遇の話として切り離す

3行目の詳しい進め方は後半の「人の側で止まるとき」で扱います。ここで押さえておきたいのは、原因が3行目にあたる業務を棚卸しの対象へ入れると、全体が止まるという点です。原因の見立てを先に置いておくと、対象から外す判断がしやすくなります。

放置した場合に何が起きるかも先に整理しておきます。担当者が休んだ日に業務が止まる、退職時に手順が残らない、品質のばらつきが誰にも見えない、という3つが典型的な結果です。いずれも起きてから対処すると費用が跳ね上がるので、人が抜ける見込みが立っている業務から先に手を付けます。

「全部洗い出す」から始めると終わらない

業務棚卸しの解説はほぼ例外なく「すべての業務を洗い出す」から始まります。数百人規模であれば部門ごとに分担できますが、10〜20名では洗い出しそのものを担当者本人が背負います。日常業務を止められないため、途中で止まります。止まる原因は工数だけではありません。対象外を決めていないことです。終わりの見えない作業になると、優先順位が下がり、そのまま放置されます。そこでこの記事では、先に対象を絞り、着手順を決め、完了の線を引いてから始める順序をとります。

始める前に決めておく3つ

洗い出しに手を付ける前に決めることが3つあります。対象にしない業務の線引き、残った業務の着手順、そして誰がどれだけの期間で一巡させるかです。この3つが決まっていれば、表の様式が多少粗くても作業は前へ進みます。逆に、様式だけを整えても、埋める手はすぐ止まります。

残してよい属人化がある

属人化はすべて悪ではありません。解消のコストが、抜けたときの損失を上回る業務があります。ここを決めないまま始めると、気付いたときには全業務が対象に入ってしまいます。

業務の性質扱い理由
法令・お金・取引先に直結する必ず解消する止まると事業が止まる。金額も大きい
頻度が高く、手順が決まっている解消する文書化の費用対効果が高い
年1回で、外部の専門家に頼める残してよい社内に手順を持つ意味が薄い
その人の経験や関係性が価値そのもの残す。ただし記録は取る手順化しても再現しない
近く廃止する予定がある残す廃止のほうが早い

「残す」と決めた業務も、誰が担当しているかと、抜けたときに誰へ頼むかだけは書き出してください。手順は不要です。この1行があるかないかで、突発時の対応が変わります。

着手順は3つの軸で決める

多くの記事は「優先度の高い業務から」と書きます。何をもって高いとするかが決まっていないと、結局は着手しやすいものから始まります。次の3つで判定してください。

見るもの高いと判断する状態
停止時の影響その業務が1週間止まったとき何が起きるか請求・支払・納品・法定手続が止まる
担当者の残存期間その人があと何年その業務にいるか退職・異動・定年が視野に入っている
代替の難しさ外部や他の社員が今日から代われるか代われる人が社内外にいない

3つとも高い業務が最初です。1つだけ高い業務は後回しで構いません。担当者の残存期間を軸に入れているのがこの記事の立場です。影響度だけで並べると、来月退職する人の業務が後ろに回ります。

参考として、厚生労働省の令和6年雇用動向調査における離職率は計14.2%です。これは常用労働者の離職者数を1月1日現在の常用労働者数で割った率であり、引継ぎができていたかどうかを数えたものではありません。人が抜けること自体は例外ではない、という前提の確認として扱ってください。

記入例|3つの軸で判定するとこうなる

従業員15名の製造業を想定した記入例です。実際にはこの粒度で6〜8行あれば、着手順は決まります。

業務停止時の影響担当者の残存代替の難しさ判定
請求書の発行と送付高(入金が止まる)低(定年まで8年)高(1名のみ)最優先
受注データの基幹システム入力高(出荷が止まる)高(再雇用で来年まで)高(画面を知る人が1名)最優先
特定顧客の仕様調整中(納期が延びる)高(関係性が価値)残す。連絡先だけ記録
月次の在庫棚卸し中(手順は共有済み)後回し
年1回の保険更新手続き低(代理店に頼める)対象外
社長の与信判断高(受注可否が止まる)判断の条件だけ書き出す

この例では、2行目が最初の対象になります。影響度だけで並べると1行目が先に来ますが、担当者が来年までしかいないため、実務上は2行目が先です。3つ目の軸を入れる意味はここにあります。5行目のように「対象外」と書く行があることも重要です。判断した記録が残っていないと、次に見た人が同じ検討を繰り返します。

一巡にかかる時間と体制

所要を書いた記事がほとんどないため、目安を示します。1部門10名程度で、対象を絞った場合の想定です。

工程担当目安
対象を決める経営者+管理部門半日
記入する各担当者2週間(日常業務と並行)
集計と確認管理部門1週間
最初の1業務を標準化する担当者+引き継ぐ人2〜3週間

全社を一度にやろうとすると記入の質が落ちて集計できません。1部門で様式を固めてから広げてください。表の項目と記入基準は業務棚卸し表の作り方で扱っています。工程の中身が見えない業務は、先に記録が必要です。待ち時間と例外の記録方法は業務可視化のやり方を参照してください。

棚卸しの後は4つに分かれる

棚卸しの出口を「標準化」だけにしないでください。洗い出した業務は次の4つに分かれます。この分岐を持たないと、すべてが手順書作成へ流れ込み、作る量に潰されてしまいます。

分岐選ぶ条件次に読むもの
やめる誰も使っていない資料、二重確認、形骸化した報告業務改善の始め方
標準化する頻度が高く、手順が決まっている業務標準化の進め方
外に出す専門性が高く、社内に置く必要がない情シス不在の会社が整えるもの
ツール化する入力が揃っていて、誤りに気付けるAIに向いている業務の見分け方

順序も決まっています。まず「やめる」を検討します。やめられる業務を標準化すると、不要な手順書を維持し続けることになります。詳しくは中小企業の業務改善は何から始めるかで扱っています。

標準化を選んだ場合の進め方は業務標準化の進め方、ツール化を検討する場合の適性判断はAIに向いている業務の見分け方にあります。外部委託の線引きは情シス不在の中小企業がまず整えるものです。

人の側で止まるとき

ここまでは業務の選び方でしたが、この規模で実際に止まる原因は人の側にあります。担当者本人が協力しない場合と、経営者自身がいちばんの属人化になっている場合の2つが典型です。どちらも表の様式を工夫しても解けません。

唯一の担当者が協力しないとき

手順の解説はヒアリングを前提にしますが、実務で難しいのは聞く相手が、変化に抵抗している当事者である場合です。10〜20名規模では代わりに聞ける人がいません。

抵抗の理由はたいてい2つに分かれます。仕事を取られるという懸念と、自分のやり方を否定されるという受け止めです。前者は評価と処遇の話で、棚卸しでは解けません。後者は進め方で変えられます。

有効なのは、手順を書かせるのではなく引き継ぐ人に横で作業させ、その人に書かせることです。担当者の役割は「見て、違うところを指摘する」になります。否定されている感覚が生じにくく、暗黙の判断も表に出ます。

それでも進まない場合、その業務は今は対象外にしてください。人事上の課題として別に扱うほうが早く、棚卸し全体を止めるより損失が小さくなります。

経営者自身が当事者である場合

10〜20名の会社で最も属人化しているのは、多くの場合経営者本人の業務です。判断、価格の決定、取引先との関係、金融機関とのやり取り。これらは棚卸しの対象から外されがちです。

すべてを手順化する必要はありません。判断の条件だけを書き出してください。「いくらまでなら自分に確認せず進めてよいか」「どういう相手なら断ってよいか」。この2つが書かれているだけで、経営者不在時に止まる業務が減ります。

後継者がいる場合、この記録がそのまま引き継ぎ資料になります。手順ではなく判断の条件を残すことが、この規模での実務的な解です。

作った後をどうするか

棚卸しは、表が埋まった時点でも、一度読み合わせた時点でも終わりません。終わりをどう判定するか、その後に表を誰が保つか、そして次の検討へどうつなぐか。この3つを決めておくと、一度きりで消える作業になりません。

完了をどう判定するか

棚卸し表が埋まった時点は完了ではありません。判定は1つだけです。その業務を、担当者以外の人が、手順書を見ながら同じ結果を出せるか。

実際にやってもらってください。読んで分かった気になる段階と、やって同じ結果が出る段階の間に、暗黙の判断が挟まっています。詰まった箇所がそのまま追記すべき内容です。

状態判定
手順書がある未完了
担当者が「書いた」と言っている未完了
二人目が読んで理解できた未完了
二人目が実際にやって同じ結果が出た完了
二人目がやり、例外にも対処できた完了(望ましい水準)

この判定方法は業務標準化の進め方で詳しく扱っています。効果を数字で見る場合の指標は業務改善のKPIを参照してください。

棚卸し表の持ち主と更新時期

作った表を維持できるかどうかで、この作業が資産になるか一度きりで終わるかが決まります。決めるのは2つです。

1つは持ち主です。管理部門の特定の1名にしてください。全員が更新できる表は、誰も更新しません。もう1つは更新のきっかけです。定期的な見直しより、担当が変わったとき、業務が増えたとき、例外が起きたときに、その場で1行足す運用のほうが続きます。

棚卸しの結果が、次の前提になる

令和8年版情報通信白書は、AI導入に成功するための最初のステップとして、AIに対応するデータがあるかどうか、つまり「AI-Ready」化ができているかどうかという点があるという指摘を紹介しています。

あわせて、特にAIエージェントの活用に向けては、データの精度と鮮度がより重要となってくる、としています。棚卸しの文脈へ置き換えると、これは表を埋めた後に、AIへ渡せる情報がどれだけ残っているかという問いになります。

棚卸し表は、業務の一覧であると同時に、どの業務がどの情報を使っているかの一覧でもあります。使っている情報の置き場所と更新日を欄に入れておくと、後の判断材料がそのまま揃います。

白書はまた、AIの活用が作業の自動化に留まると効率は向上するがAI自体の資産価値は上がらない一方、知見・知識・ノウハウをAI化することは時間とともに価値が上がることにつながる、という指摘も紹介しています。属人化の解消で残すべきものは、手順だけでなく判断の理由です。

出典

よくあるご質問

属人化の対義語や言い換えはありますか

定まった対義語はありませんが、実務では標準化、仕組み化、脱属人化という言い方をします。標準化は手順を揃えることを指し、仕組み化は人が変わっても回る形にすることを指すため、範囲が違います。この記事が扱っているのは、標準化の前段にある対象の選び方です。

棚卸しはどの単位で書けばよいですか

人ではなく業務を単位にしてください。人を単位にすると、兼務の多い会社では同じ業務が複数行に分かれ、合計が実態より多くなります。粒度は「担当が変わったときに引き継ぐ単位」が目安です。

外注や派遣の業務も対象に含めますか

含めてください。属人化の危険は契約形態ではなく引き継ぎの有無で決まります。契約終了の時期が決まっている業務ほど、終了より前に記録を取っておいてください。

手順書はどこまで細かく書きますか

二人目が同じ結果を出せる粒度が基準です。それ以上細かくすると更新されなくなります。作業手順より、判断が必要な箇所の条件と例を優先して書いてください。引き継ぎで効くのは判断の条件のほうです。

ツールを導入すれば解決しませんか

業務が整理されていない状態でツールを入れると、属人化した手順がツール上に再現されます。設定を触れる人が1人しかいない状態になれば、属人化の対象が業務からツールへ移っただけです。棚卸しと分岐の判断を先に済ませてください。

今週やること

今週着手するなら、業務の洗い出しではありません。あと3年以内に抜ける可能性がある人が担当していて、止まると請求か納品が止まる業務を、1つだけ挙げてください。そこが最初の対象です。

着手の順序に迷う場合は、お問い合わせからご連絡ください。

ここまでの整理を踏まえて、無料診断で現在の段階を確認できます。

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AX/DX Labo. 編集部

最終更新: 2026.07.23