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業務棚卸し表の作り方|9項目のフォーマットと、粒度を揃える書き方

棚卸し表に何を書くかで、後の判断の質が決まります。貼り付けて使える9項目のフォーマット、業務名の粒度を揃える基準、記入者の選び方、埋まらない欄の扱い、集計して何を見るか、更新を続ける仕組みまでを整理しました。

業務棚卸し表の作り方|9項目のフォーマットと、粒度を揃える書き方

この記事は、社内にどんな業務があるかを一覧にしたい中小企業の経営者と管理部門に向けたものです。棚卸しの必要性を説く記事は多く、テンプレートの配布も各所で行われています。一方で、実際に配って書いてもらうと、粒度がばらばらで集計できない表ができあがることがよくあります。問題は様式ではなく、書き方の基準です。この記事では、項目の決め方と、記入の精度を落とさないための基準を扱います。ダウンロード登録の要る様式は紹介しません。使う列はこの記事にすべて書いてあります。

業務棚卸しとは

業務棚卸しとは、社内で行われている業務を洗い出し、担当者・発生頻度・1回の所要時間・代替可能性までを一覧にして、どこにどれだけの量があるかを測る作業です。目的は一覧を作ることそのものではありません。次に手を入れる業務を選ぶために、比べられる形へそろえていきます。「業務棚卸表」と表記されることもありますが、指している内容は同じです。この記事ではひらがな表記の「棚卸し」で統一しています。

似た言葉に業務洗い出しや業務リストアップがあります。洗い出しは、業務名を並べた時点でいったん終わりです。棚卸しはそこから先へ進み、時間と代替可能性まで測るので、並べ替えて優先順位を出せる点が違います。名前を集めただけの一覧では、どれから手を付けるかを決められません。

結論

棚卸し表の質は、様式ではなく書き方の基準で決まります。9項目に絞り、業務名は動詞で終える、1行1動作、時間を測れる大きさ。この基準を記入例とともに配れば、集計できる表ができます。

棚卸し表と業務フロー図は別物

最初に区別しておきます。この2つは目的も粒度も違い、混ぜると作業が終わりません。

棚卸し表業務フロー図・工程表
対象会社や部門にある業務の一覧1つの業務の中身
1行の単位1業務1工程
行数の目安部門あたり20〜50行1業務あたり5〜15行
主な用途全体像の把握、対象業務の選定改善箇所の特定、手順書の下地
作る順序後(対象を絞ってから)

棚卸し表は「どの業務を詳しく見るか」を決めるための道具です。ここで工程まで書き込もうとすると、1業務目で力尽きます。細かさは後の工程に譲ります。

表の項目は9つ|そのまま使えるフォーマット

様式そのものは、下の1行があれば足ります。この行をそのまま表計算ソフトの1行目へ貼り付ければ、そこから記入を始められます。ダウンロード登録の要る配布物を探す必要はありません。列は左から書きやすい順に並べてあるので、そのまま使ってください。

業務名担当者発生頻度1回の所要時間月間時間年間時間代替可能性使用しているシステム困っていること

次の9項目で足ります。これ以上増やすと記入されません。欄を増やすほど精度が上がるように見えますが、実際には空欄が並ぶだけで、集計に使える行が減ります。それぞれの欄を後で何に使うかを、記入を頼む前に伝えてください。

項目記入内容後で何に使うか
業務名動詞で終わる形(次章参照)重複と抜けの確認
担当者実際に手を動かす人(複数可)属人化と負荷の偏りの把握
発生頻度毎日/週◯回/月◯回/年◯回月間時間の算出
1回の所要時間分または時間月間時間の算出
月間時間頻度 × 所要時間(自動計算)対象業務の優先順位づけ
年間時間月間時間×12(不定期は直近3か月の実績×4)投資判断と外注費の比較
代替可能性本人以外にできる人の数(0/1/2人以上)属人化リスクの把握
使用しているシステムその業務で使う台帳・ファイル・システムの名前と置き場所AI・自動化を検討するときの前提確認
困っていること1行の自由記述改善候補の抽出

「改善案」の欄を設けたくなりますが、棚卸しの段階では入れません。改善案を書こうとすると手が止まり、また案を思いつかない業務が空欄のまま残ります。改善は棚卸しが終わってからの作業です。代替可能性は、時間の欄より先に見る欄です。0人の業務は、その人が休んだ時点で止まります。時間が短くても優先度は上がってきます。

大分類・中分類・小分類は必要になってから作る

3階層とは、部門などの大分類の下に中分類を置き、その下に個々の業務名を並べる入れ子のことです。分類の枠があると表は整って見えますし、業務数が数百件ある会社では、目当ての行を探すときに効きます。そのうえで、自社の規模で本当に要るかどうかを考えます。

棚卸し表の様式では、業務を大分類・中分類・小分類の3階層で整理する方法が広く紹介されています。10〜20名の会社では、この階層を作りません。

3階層が向く場合10〜20名の実態
部門が複数あり、部門をまたいで比較したい部門という単位が実質ない
業務数が数百件あり、分類しないと探せない全社で50〜100行に収まる
分類を決める専任者がいる分類の議論に時間を使う余裕がない
組織変更のたびに再集計する必要がある組織がほぼ変わらない

3階層を作ると、記入者は「この業務はどの中分類に入るのか」で手が止まります。そして分類の議論に時間を取られ、肝心の所要時間と代替可能性が埋まりません。50〜100行なら、並べ替えるだけで十分に探せます。分類が必要になるのは、統合した表が150行を超えたときです。そのとき初めて、担当部門の列を足すか、業務名の頭に区分を付けるかを検討します。最初から作る必要はありません。

業務名の書き方で精度が決まる

棚卸し表の成否は、ほぼここで決まります。業務名の粒度がそろっていないと、集計しても比較できません。

3つのルール

動詞で終えます。「請求書」ではなく「請求書を作成する」と書く。1行に1つの動作だけを書きます。「作成して送付する」は2行に分けます。他部門の人が読んで何をするか分かる言葉にし、社内の略語は使いません。

粒度をそろえる基準

粗すぎ・細かすぎを判定する目安を示します。

書き方判定理由
経理業務粗すぎる何をするか分からず、時間も測れない
月次の売上を集計する適切始まりと終わりが明確で、時間を測れる
請求書を作成する適切同上
請求書の宛名欄に社名を入力する細かすぎる工程であって業務ではない

判定の基準は「その作業を始めてから終わるまでを、1回として時間を測れるか」です。測れないほど大きいなら分割し、測るのが馬鹿らしいほど小さいなら統合します。記入を依頼するときは、この基準と適切な例を2つ添えます。基準なしで配ると、粗い人と細かい人が混在し、集計の意味がなくなります。

9項目を埋めた例

総務担当1名の会社を想定した記入例です。数値は考え方を示すための仮の値です。

業務名担当頻度1回月間年間代替システム困っていること
請求書を作成する山田月1回4時間4時間48時間0人会計ソフト月初に集中する
勤怠を集計する山田月1回3時間3時間36時間0人勤怠システム打刻漏れの確認に時間がかかる
備品を発注する山田週1回20分1.3時間15.6時間1人共有フォルダの発注表特になし
電話を取り次ぐ全員毎日3分×15件15時間180時間2人以上紙のメモ作業が中断される
問い合わせに回答する山田毎日10分×5件17時間204時間1人共有メールボックス同じ質問が多い

この5行だけでも、判断が変わります。感覚では「月初の請求業務が大変」ですが、月間時間で見ると問い合わせ対応と電話取次のほうが大きいためです。一方で代替可能性を見ると、請求書と勤怠は0人であり、山田さんが休むと止まります。年間に直すと問い合わせ対応は204時間で、外注や自動化にいくらまで払えるかを考える材料になるはずです。

着手先は2つに分かれます。時間を減らしたいなら問い合わせ対応、止まるリスクを下げたいなら請求書と勤怠です。どちらを優先するかは経営課題によって決まります。この判断が、棚卸し表を作る目的です。

月間時間の計算でつまずく箇所

ケース書き方
1日に複数回発生する1回の時間 × 1日の件数 × 稼働日数(例の電話取次の行)
繁忙期だけ増える通常月で書き、備考に繁忙期の倍率を書く
複数人で同時に行う1人あたりの時間 × 人数で書く
待ち時間が長い作業時間だけを書く。待ちは別に記録する

4番目に注意します。承認待ちで3日止まっている業務も、作業時間としては10分です。棚卸し表には作業時間を書き、待ちは対象業務を絞ってから別途測る形にします。混ぜると、どちらの数字も使えなくなります。

記入は誰がやるか

配ってから統合するまで(3 つの時点を並べた図)

実際にその業務をしている本人が記入します。上司がまとめて書くと、把握していない業務が抜け、時間も実態から離れます。ただし本人任せにすると、粒度がそろいません。次の進め方が現実的です。

取りまとめ役が、基準と記入例を添えて様式を配ります。各自が2週間かけて記入する。一度に書き切ろうとしないことが大切です。取りまとめ役が粒度を確認し、粗い行と細かい行は本人へ差し戻します。最後に全員分を1つの表へ統合し、重複と抜けを見ます。3番目を省略すると、集計できない表が残ります。差し戻しは1回だけ、粒度についてだけ行います。内容にまで口を出すと、記入が防衛的になります。

目的を先に伝える

所要時間を書かせる作業は、評価のための調査だと受け取られがちです。「業務を減らすために、今どこに時間がかかっているかを知りたい」と目的を先に伝えます。伝えないと、時間が短めに書かれ、判断を誤ります。

埋まらない欄の扱い

全欄を埋めようとすると作業が止まります。埋まらない欄には意味があるため、そのまま扱います。

埋まらない欄示していること扱い
所要時間が書けない毎回大きく変わる業務「変動」と記入し、幅(最短と最長)を書く
頻度が書けない不定期に発生する業務「不定期」と記入し、直近3か月の件数を書く
担当者が複数いて特定できない手順が統一されていないそのまま複数名を書く。標準化の候補になる
業務名が書けない本人も何をしているか言語化できていない取りまとめ役が聞き取りで補う

最後の行は放置できない項目です。言語化できていない業務は、引き継ぎも自動化もできません。空欄のまま残すと、その業務は棚卸し表から消え、属人化したまま残ります。

つまずくのは決まった4か所

手が止まる箇所は、会社が変わってもだいたい同じです。改善案の欄を作ってしまい、案が浮かばない行で記入が止まる。全部門へ同時に配って、粒度の違う表が大量に返ってくる。上司が代筆して、実際の所要時間と離れた数字が並ぶ。工程まで書き込もうとして、1業務目で終わらない。どれも記入が始まる前の設計で決まるので、配る様式と依頼文を見直すほうが早く直ります。

集計して何を見るか

統合した表ができたら、次の4つの並べ替えを行います。それぞれ違う候補が出てきます。月間時間の大きい順に見ると、改善したときの効果が大きい業務が分かります。代替可能性が0の業務は、担当者が抜けると止まる業務。同じ業務名が複数行あるものは、部門をまたいで重複しています。困っていることが書かれている業務は、現場が課題を認識している業務です。1番目と2番目の両方に該当する業務が、最優先です。時間が長く、かつ本人しかできない業務。ここから着手すれば、効果とリスク低減の両方が得られます。

並べ替えで浮いてきた業務には、4つの問いを順に当てます。なくせないか、まとめられないか、順番を入れ替えられないか、簡単にできないか、の4つです。この順序はECRSと呼ばれていて、先の2つで業務そのものが消えることがあるため、いきなり手順の改善から入るより無駄が出にくくなります。答えの出ない業務は、いったん置いて次の行へ進みます。

3番目は見落とされます。同じ内容を複数部門が別々に行っていることは珍しくありません。属人化そのものへの対処は属人化を解消する業務棚卸しの進め方で扱っています。

全社へ広げる順序

最初から全部門へ配ると、粒度がばらばらの表が大量に返ってきて収拾がつかなくなります。1部門で基準が伝わることを確認してから広げます。

順序対象確認すること
1取りまとめ役が自分の業務で記入する9項目で足りるか。記入に何分かかるか
21部門(5名以内)へ配る基準と記入例だけで粒度がそろうか
3粒度がそろわなければ記入例を追加するどの例を足せば伝わるか
4残りの部門へ配る同じ基準で回収できるか
5全部門分を1つの表へ統合する重複と抜けがないか

1番目を省略しません。取りまとめ役が自分で書いてみると、説明が足りない箇所が見えてきます。自分で書かずに配ると、返ってきた表を見て初めて基準の不備に気付くことになります。

従業員10〜20名であれば、部門という単位がないこともあります。その場合は、業務の性質が近い2〜3名を1組として進めます。

統合するときに出てくる重複

重複の型示していること対応
同じ業務名が複数人から出た分担しているか、二重に行っている実態を確認する。二重なら片方をやめる
似た業務名だが中身が違う業務名の書き方が揃っていない名称を統一する
前工程と後工程が別々に挙がった1つの流れが分断して記録されたそのままでよい。工程の記録として使える
誰も挙げていない業務がある記入漏れ、または本当に誰もやっていない実施状況を確認する

最後の行が重要です。「やっているはずだが誰も挙げていない業務」は、実際には行われていない可能性が出てきます。棚卸しはこれを見つける機会にもなります。

更新をどう続けるか

棚卸し表は作った時点が最新で、あとは古くなる一方です。全面更新を年1回やろうとすると続きません。更新するタイミングを絞ります。人が入る・抜けるときは、担当者と代替可能性の列だけを直します。業務を1つ改善したときは、その行だけ。年1回、月間時間の上位10行だけを見直します。全行を維持しようとしません。判断に使うのは上位の行だけです。下位の行は古くなっていても、実害はほとんどありません。

棚卸しの結果をAIに渡す段階では、データの状態が問題になります。AI-Readyとはで、確認する3点を扱っています。

棚卸しの結果は、そのままAIの前提になる

令和8年版情報通信白書は、AI導入に成功するための最初のステップとして、AIに対応するデータがあるかどうか、つまり「AI-Ready」化ができているかどうかという点があるという指摘を紹介しました。あわせて、特にAIエージェントの活用に向けては、データの精度と鮮度がより重要となってくるとしています。

棚卸し表は、業務の一覧であると同時に、どの業務がどの情報を使っているかの一覧でもあるのです。使っている情報の置き場所と更新日を欄に入れておくと、後でAIを検討するときにそのまま判断材料になります。

逆に、業務名と担当者だけの棚卸し表では、この判断ができません。作り直しになります。棚卸しの後に何から着手したかの記録はツールより先にルール、得意な人より先に苦手な人にあります。

出典

よくあるご質問

配布されているフォーマットをそのまま使ってよいですか

使って構いません。ただし、様式を選ぶ時間より、書き方の基準を決める時間のほうが結果を左右します。配布されているフォーマットの多くは項目が揃っていますが、粒度をどこに合わせるかまでは指定していません。同じ表に「請求書発行」と「経理業務全般」が並ぶと、集計しても比べられない一覧になります。この記事の9項目と3つのルールを先に決めてから、手元の様式へ当てはめてください。表計算ソフトの新規シートでも足ります。

無料で使える様式はどこにありますか

この記事の「表の項目は9つ」にある1行が、そのまま使える無料の様式です。ダウンロードや会員登録は不要で、見出し行を表計算ソフトへ貼り付ければ記入を始められます。それとは別に、棚卸し専用ではないものの公的機関の配布物も使えます。中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針では、BCP様式類(記入シート)の様式01から様式20までが、会員登録なしでダウンロードできます。このうち様式06「中核事業に係る情報」が業務の洗い出しに、様式08「事業継続に係る各種資源の代替の情報」が代替可能性の欄に対応します。棚卸し専用の様式ではないため列はそのままでは合いませんが、記入する内容の考え方は共通しています。

棚卸しにはどのくらいかかりますか

1部門10名程度で、記入に2週間、集計と確認に1週間が目安です。全社を一度にやろうとすると、記入の質が落ちて集計できません。1部門で様式を固めてから広げます。

兼務が多い場合はどう書きますか

人ではなく業務を単位にして、担当者の欄に複数名を書きます。人を単位にすると、同じ業務が複数行に分かれ、合計が実態より多くなります。

外注や派遣の業務も含めますか

含めます。属人化の危険は、契約形態ではなく引き継ぎの有無しだいです。契約が終わる時期が決まっている業務ほど、先に記録しておく価値があります。

今週着手するなら、9項目の様式と記入例2つを作り、1部門に配るところまでです。全社に配る前に、1部門で基準が伝わるかを確認します。

棚卸しの次にどう進めるかは中小企業のDXは何から始める?、AI活用を検討する段階へ進む場合は中小企業がAI導入前に整理すべき業務を参照してください。

手順のどこで詰まるかは会社ごとに違います。お問い合わせから、現在の状況をお知らせください。

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編集者K

技術確認: 編集者K/ 最終更新: 2026.09.15