人手不足が続き、生産性を上げるよう言われている。ただ、何をどう測ればよいのかが決まっていない。従業員10〜20名で、専任のIT担当がいない会社の経営者と管理部門に向けて書いています。
統計が示していること
中小企業の一人当たり労働生産性は、2015年度から2024年度の10年間で634.6万円から665.6万円へ、4.9%の増加にとどまります。ほぼ横ばいです。一方、時間当たりでは2,885円から3,621円へ、25.5%上がっています。同じ期間に一人当たり労働時間が6.6%減っているためです。働く時間を減らしながら、1時間あたりの産出は増やしている、という形になります。
この2つの数字の差が、生産性を議論するときの出発点になります。一人当たりで見ると停滞しているように見え、時間当たりで見ると改善しています。どちらを見るかで結論が変わります。
数字の出どころ
| 項目 | 2015年度 | 2024年度 | 変化 |
| 中小企業の一人当たり労働生産性 | 634.6万円 | 665.6万円 | +4.9% |
| 中小企業の時間当たり労働生産性 | 2,885円 | 3,621円 | +25.5% |
| 一人当たり労働時間 | — | — | −6.6% |
| 一社当たり付加価値額 | 171.7百万円 | 241.5百万円 | +40.7% |
| (参考)大企業の一人当たり労働生産性 | 1,537.5万円 | 1,935.1万円 | +25.9% |
出典: 中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」PDF 11ページ(2026年4月/確認日 2026年9月1日)。一人当たりは財務省「法人企業統計調査年報」、時間当たりは中小企業庁「中小企業実態基本調査」と厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の再編加工です。
母集団の定義が指標ごとに違う点に注意が必要です。一人当たりの「中小企業」は資本金1千万円以上1億円未満、時間当たりは従業員6人以上の法人企業です。同じ「中小企業」という言葉でも、指している範囲は別です。2024年度は速報値である旨も白書に注記されています。
付加価値額の定義も白書に明記されています。営業純益に人件費、減価償却費、支払利息等、動産・不動産賃借料、租税公課を足したものです。一人当たり労働生産性は、この付加価値額を従業員数で割ります。時間当たり労働生産性は、同じ付加価値額を総労働時間で割った値で、総労働時間は従業員数に一人当たり労働時間を掛けて算出されています。
2つの式の違いは、分母が人数か時間かという1点だけです。同じ付加価値額でも、人数で割れば採用や退職があるたびに数字が動き、時間で割れば残業を減らした分がそのまま数字へ出ます。一人当たりが横ばいで時間当たりだけが伸びたのは、分子が増えたからではなく分母が縮んだため、と読めます。
規模が小さくても届く、と公的資料に書かれている
同じ白書に、次の記述があります。企業規模別の労働生産性の分布を見ると、中小企業のうち上位に位置する企業群は、大企業の中央値を超える水準にある、というものです。白書はこう続けています。大企業と遜色ない労働生産性を持つ中小企業は一定程度存在しており、規模の小さい企業であっても高い労働生産性を実現できる可能性がある、と。
出典: 同白書 PDF 13ページ。ただしこの図の「中小企業」は従業者50人以上かつ資本金3,000万円以上で、他の図とは定義が違います。従業員10〜20名の会社はこの集計に含まれていません。数字をそのまま自社に当てはめることはできない、ということです。それでも、規模と生産性が単純に比例するわけではない、という点は読み取れます。
人手不足の現状
2025年11月調査の労働者過不足判断DIは、情報通信業と学術研究・専門技術サービス業が−58、建設業・運輸業・医療福祉が−57、製造業が−40、卸売業・小売業が−38です。この指標は「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」の割合を引いた値で、白書では他の指標と傾向をそろえるため、公表結果を逆転して表示している旨が注記されています。数値が小さいほど不足感が強い、という読み方になります。
不足している職種は、専門的・技術的職業従事者が26.0%、サービス職業従事者が19.8%と続きます。事務従事者は8.9%です(厚生労働省「雇用動向調査」令和7年上半期/中小企業=常用労働者5人以上299人以下)。
先の見通しとしては、一定の試算に基づけば中小企業の雇用者数は2040年に2018年比で8割半ばまで落ち込む可能性がある、と白書に記載されています。生産年齢人口は2015年から2040年で約1,200万人減少する見込みです。
白書が挙げている取り組みの分類
白書は、労働生産性を上げる取り組みを2つに分けています。産出を増やす側と、投入を最適化する側です。
| 方向 | 挙げられている取り組み | 10〜20名での現実味 |
| 付加価値額を増やす | 成長投資 | 投資余力が要る |
| 研究開発 | 体制が要る | |
| 人材育成 | 取り組める | |
| 価格転嫁 | 取り組める。交渉の材料が要る | |
| 事業承継・M&A | 局面が限られる | |
| 労働投入量を最適化する | 省力化投資 | 規模を選べば取り組める |
| AI活用・デジタル化 | 取り組める |
出典: 同白書 PDF 13ページ 図2。7つのうち、少人数の会社がすぐ着手できるのは人材育成、価格転嫁、省力化投資、AI活用の4つです。残り3つは投資余力か局面が前提になります。
AI活用と生産性の関係について報告されている数字
白書には、労働生産性の類型が移動した割合の集計があります。2015〜2019年に「非効率的成長型」だった事業者のうち、その後「効率的成長型」へ移行した割合です。
| 取り組み | 取り組んだ企業 | 取り組んでいない企業 |
| AI活用 | 49.0%(n=247) | 38.3%(n=514) |
| ITツール活用 | 44.2%(n=556) | 35.1%(n=205) |
| 省力化投資 | 41.8%(n=761) | 34.3%(n=878) |
この数字は扱いに注意が必要です。3点あります。
第一に、これは民間の調査を中小企業庁が引用した二次データです(帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」)。第二に、AI活用とITツール活用の設問は省力化投資に「取り組んだ」と回答した事業者にだけ聞いています。母集団が全体ではありません。
第三に、これは相関であって因果ではない点です。AIを使ったから移行したのか、移行できる体力のある会社がAIも使えたのかは、この集計からは分かりません。出典: 同白書 PDF 20ページ。
自社で測る場合、何を数えるか
統計の平均値は、自社の状況を教えてくれません。10〜20名の会社が測るなら、白書の定義をそのまま使うより、扱える単位に落としたほうが実務になります。
| 測るもの | 数え方 | 頻度 |
| 対象業務の総所要時間 | その業務にかかった時間を、担当ごとに合計する | 月1回 |
| 処理した件数 | 請求書の枚数、問い合わせの件数など | 月1回 |
| 1件あたりの時間 | 総所要時間 ÷ 件数 | 月1回 |
| やり直しの件数 | 差し戻し、修正、再送の回数 | 月1回 |
| 待ち時間 | 他の人の対応を待っていた時間 | 着手前に1回、3か月後に1回 |
1件あたりの時間が、時間当たり労働生産性に相当します。総時間だけを見ると、件数が増えたのか効率が落ちたのかを区別できません。
4つ目のやり直しを入れるのは、速くなったように見えて後工程で戻ってくる場合を捉えるためです。測り方の詳細は業務改善のKPIの決め方、記録の様式は業務棚卸し表の作り方で扱っています。
補助金を前提にしない進め方
生産性向上の情報は補助金の申請手続きに寄りがちです。補助金は使えるなら使えばよいものですが、採択の可否と、業務が改善するかどうかは別です。
公的な支援そのものは実在します。設備を購入する場合は中小企業省力化投資補助金があり、カタログ注文型と一般型の2類型で申請できます(中小企業基盤整備機構の公募ページ/確認日 2026年9月8日)。購入をともなわない側では、2026年4月1日に各都道府県のよろず支援拠点内へ生産性向上支援センターが開設されました。
経済産業省の発表によれば、同センターは複数回(計10回程度を想定)の現場訪問型で伴走し、5Sなど作業環境の整備、ムリムラムダの削減、作業プロセス改善、デジタル化、自動化、AI活用までを扱います。運営するよろず支援拠点全国本部は「何度でも、無料で、現場へ伺います」と案内しています(確認日 2026年9月8日)。
同じ発表には、センターの支援を受けて「生産性向上取組計画」を策定すると、2026年夏頃より省力化投資補助金(一般型)の採択審査で加点措置を受けられるようになる予定、とも書かれています。ここで金額の相場や採択率は書きません。公表されている条件だけを並べると、購入をともなう支援と、人が現場へ来て一緒に手を動かす支援の2つがある、という整理になります。どちらを使う場合も、先に自社の数字が要ります。
補助金を前提にしない場合、着手できる範囲は次のようになります。
- 対象業務を1つ選び、総時間と件数を1か月記録する
- 同じデータを2回以上入力している箇所を数える
- 契約中のツールの機能で解決できないかを確認する
- できない分だけ、費用のかかる手段を検討する
3番目で解決する範囲が想像より広いことがあります。手段の比較は定型業務の自動化、重複入力の整理はSaaS連携で二重入力をなくすで扱っています。
改善をやめる基準
生産性向上の記事で、やめる判断を扱ったものはほとんどありません。しかし着手したものが全部続くわけではない、というのが実際です。
| 状況 | 判断 |
| 3か月測って、1件あたりの時間が変わらない | 対象の選び方が合っていない。別の業務へ移る |
| 時間は減ったが、やり直しが増えた | 後工程へ負荷が移っている。全体では改善していない |
| 担当者の時間外が増えた | 並行運用の負担。どちらかに寄せる |
| 記録そのものが続かない | 測る項目が多すぎる。3つに減らす |
| 改善の話が現場から出なくなった | 削減分の行き先を伝えていない可能性がある |
最後の項目は数字に出ません。削減できた時間がどこへ向かうかを決めていないと、二度目の提案が出てこなくなります。この点は削減できた時間は誰のものになるかで、公的事例13社を読んで整理しています。
生成AIの活用状況については中小企業の生成AI活用は58.1%で、令和8年版情報通信白書の数字を設問ごとに分けて扱っています。省力化投資の内訳と着手の順序は、省力化投資はAI3割・ITツール7割で扱っています。
よくあるご質問
一人当たりと時間当たり、どちらを自社の指標にすべきですか
自社で改善の効果を見るなら時間当たりです。一人当たりは人数の増減で動くため、採用や退職があると改善の効果が見えなくなります。時間当たりは、残業を減らした効果がそのまま数字に出ます。
統計の伸びは、自社にも当てはまりますか
当てはまるとは限りません。統計は業種と規模をまたいだ平均で、自社の業務構成とは別物です。使えるのは、測り方(分母に何を置くか)と、伸びている項目がどこかを知ることまでです。
補助金を使わないと、生産性は上がりませんか
上がっている取り組みには、費用のかからないものが含まれます。白書が挙げている分類のうち、手順の見直しや業務の集約は購入をともないません。補助金を前提にすると、申請の時期に着手が引きずられます。
生産性向上と業務効率化は、同じことですか
重なりますが、同じではありません。業務効率化は投入する時間や手間を減らす取り組みで、労働生産性の式では分母だけを動かします。生産性向上はそのうえで分子も対象に入り、価格転嫁や扱う仕事の入れ替えで付加価値額を増やす側を含みます。時間を減らしても単価が下がれば、時間当たりの数字は伸びません。
白書の数字は、自社が平均より上か下かを知るためのものではありません。一人当たりが横ばいで時間当たりが上がっている、という構造を知ることに意味があります。人を増やさずに労働時間を減らし、それでも産出を保つ。この形が10年間の実態です。
今週できることは、対象業務を1つ決めて、今月の総時間と件数を数えることです。その2つが無いと、来月以降の変化を判断できません。
着手の順序に迷う場合は、お問い合わせからご連絡ください。
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