解説

AXとは何か|DXとの違いと中小企業が取り組む順序

AXに統一された定義はありません。この記事では確認できた事実を示したうえで、「DXの次がAX」という直線モデルが従業員10〜20名の会社に当てはまらない理由と、自社の現在地を事実で判定して次の一歩を決める方法を扱います。

AXとは何か|DXとの違いと中小企業が取り組む順序

この記事は、AXという言葉を目にして「DXも終わっていないのに、また新しい話か」と感じている方に向けたものです。従業員10〜20名程度で、専任のDX担当も情報システム担当もいない会社を前提にしています。

先に結論を書きます。AXという語に、統一された定義はありません。そしてこの規模の会社にとって、DXとAXは順番に来るものではなく、同時に目の前にあります。

結論

AXに統一された定義はありません。語の意味を確定させることに時間を使うより、自社が何で止まっているかを先に見てください。

従業員10〜20名の会社では、DXとAXは順番に来るものではなく同時に目の前にあります。段階名で自社を分類するのではなく、判定できる事実で現在地を特定し、当てはまった行から1つだけ着手してください。

AXに統一された定義はない

まず語の形だけ確認しておきます。AXはAIトランスフォーメーション(AI Transformation)の略で、この読み方と綴りについては解説記事のあいだで食い違いが見られません。分かれるのはその先で、「何をどこまで変えることを指すのか」という中身のほうです。

多くの解説記事が、AXを「AIを業務や意思決定の中心に据える変革」と定義しています。ただし当方が確認した範囲では、その定義に出典を付けている記事はありませんでした。各社が独自の言い回しで説明している状態です。

語そのものは公的な文書にも登場します。経済産業省とIPAが2026年4月16日に公表した「デジタルスキル標準 ver.2.0」の公表資料には「AX(AIトランスフォーメーション)の進展やそれに伴うデータ活用の重要性などに鑑みて」という記述があります。ただし、そこでも定義はされていません。語が使われている、という事実にとどまります。

さらに、同じ「AX」で検索したときの上位には、AXをアナログトランスフォーメーションの略として扱う記事も並んでいます。同じ3文字でも、指している対象からして別物です。

つまり、AXという語を見たときにまず必要なのは「誰がどの意味で使っているか」の確認です。言葉の定義を巡って迷う時間は、実務の役に立ちません。

この媒体での使い方

当メディアでは、AXを「AIを使うことを前提に、業務のやり方そのものを設計し直すこと」という意味で使っています。範囲は業務と、その業務を回す体制までです。組織文化や経営モデル全体までは含めません。

範囲を限定しているのは、この規模の会社が実際に手を動かせる対象がそこだからです。定義を広げるほど、着手できることが減ります。

この媒体での意味着手の単位
IT化今のやり方のまま、道具を紙からデジタルへ替えるツール
DXデジタルを前提に、業務の流れを組み直す業務プロセス
AXAIが担うことを前提に、業務の分担と確認の仕方を組み直す工程と役割

この3つは段階ではなく、着手の単位が違うだけだと考えてください。次の節がその理由です。

「DXの次がAX」は、この規模には当てはまらない

解説記事の多くは「IT化 → DX → AX」という直線の図を示します。大企業であれば、その順序で進むのは自然です。

しかし従業員10〜20名の会社では、この図が機能しません。紙と表計算ソフトと基幹システムが同時に存在し、その一方で誰かが既に個人のアカウントで生成AIを使っているからです。図のどこか1点にいるわけではありません。

DXとの違いの説明も、解説記事どうしで見比べると2つの言い方に集まります。1つは「DXでデータを蓄積し、AXでそのデータを使う」、もう1つは「DXはデジタル技術全般を指し、AXはそのうちAIに焦点を当てる」です。大企業を念頭に置いた整理としてはどちらも筋が通っており、この記事もそこを否定しません。争点は、その整理が従業員10〜20名の会社にそのまま使えるかどうかにあります。

総務省の令和7年版情報通信白書には、一般向けアンケートで何らかの生成AIサービスを「使っている(過去使ったことがある)」と回答した割合が、2023年度9.1%から2024年度26.7%になったという記載があります。これは個人の利用経験を尋ねた調査であり、企業の導入率ではありません。それでも、1年で3倍近くになっている以上、社員が個人として触れている可能性は十分に高いと言えます。

つまり、DXが終わるのを待ってAXへ進むのではありません。DXの積み残しとAIの利用が、同時に目の前にあるのが実際の状態です。

AXはDXの積み残しの延長にある

IPAが公表した「DX動向2026」では、DXの成果について「業務効率化などに関する項目で高く、企業価値創出につながる項目では低い」という所見が示されています。この調査は国内企業の経営層や情報システム部門などを対象に1,799社から回答を得たものです。

DXが効率化のところで止まりやすい、という傾向がうかがえます。AXはこの積み残しの上に来る話であり、まったく新しい取り組みではありません。

そう考えると、やるべきことは「AXを始める」ではなく「今どこで止まっているかを特定して、そこから進める」になります。

自社の現在地を、事実で判定する

段階名で自社を分類しても、次の行動は決まりません。判定できる事実で分岐してください。上から順に当てはまるかどうかを見て、最初に当てはまった行が現在地です。

当てはまる事実現在地次に読むもの
紙・電話・FAXでのやり取りが業務の中心にある道具が替わっていない中小企業の業務改善は何から始めるか
同じ数字を2か所以上に入力している流れが組み直されていないSaaS連携で二重入力をなくす
何から手を付けるか決まらないまま数か月経っている着手の判断で止まっている中小企業のDXは何から始める?最初の90日
やると決めたが、進め方が分からない手順で止まっている中小企業のAI導入手順
導入したが、使われていない定着で止まっているAIを入れたのに使われない
誰が決めるのかが決まっていない体制で止まっているAI推進体制の作り方
経営として判断がつかない経営判断で止まっている経営者がAIについて学ぶべきこと

上の2行はDX側、下の4行はAX側の課題です。両方に当てはまる会社が普通です。その場合は上の行から着手してください。データが揃っていない状態でAIを使っても、渡せる情報がありません。

解説記事が並べる4〜5段階の推進ステップと、この判定表は用途が違います。段階の一覧は全体像をつかむためのもので、自社がどこから手を付けるべきかまでは示してくれません。判定表で入口を1つ決めたら、その先は当てはまった行のリンク先にある手順へ移ってください。踏む順序は、入口を決める・小さく試す・使われているかを点検する、の3つで足ります。

リンク先はそれぞれ、中小企業の業務改善は何から始めるかSaaS連携で二重入力をなくす中小企業のDXは何から始める?最初の90日中小企業のAI導入手順AIを入れたのに使われないAI推進体制の作り方経営者がAIについて学ぶべきことです。

判定してみる|従業員15名の会社の例

卸売業、従業員15名、社長と事務2名で管理業務を回している会社を想定します。判定表を上から見ていくと、次のようになります。

判定項目この会社の状態当てはまるか
紙・電話・FAXが中心FAX注文が全体の3割ある当てはまる
同じ数字を2か所以上に入力受注をシステムと出荷表の両方に入力当てはまる
何から手を付けるか決まらない「AIを使いたい」とは言っている当てはまる
やると決めたが手順がないまだ決めていない
導入したが使われていない導入していない
誰が決めるか決まっていない社長が決める体制はある
経営判断がつかない投資の判断はできる

3行に当てはまりますが、着手するのはいちばん上の1行だけです。この会社の場合、FAX注文の扱いを整理することが最初になります。

3行目の「AIを使いたい」から入ると、FAX注文という渡せない情報にぶつかって止まります。判定表を上から見るのは、この空振りを避けるためです。やりたいことではなく、詰まっている場所から始めてください。

今はやらなくてよい条件

AXの解説はほぼすべて推進を前提にしています。ここでは反対側を書きます。次のいずれかに当てはまる場合、AIへの着手は後回しにしてください。

条件先にやること遅らせた場合に起きること
業務で使う情報が紙か担当者の記憶にしかない情報を取り出せる形にする着手直前で止まる。準備の期間は変わらない
繁忙期が2か月以内に来る繁忙期を越えてから始める試行が中断し、判断材料が残らない
出力の誤りに気付ける人が社内にいないその業務を理解している人を確保する誤りが後工程まで通る。気付いたときには手遅れ
直近で人が辞める予定がある引き継ぎを先に済ませる属人化した業務がそのまま消える

1行目に該当する会社が最も多く見られます。この場合、AIを使わない判断ではなく順序の判断です。情報を取り出せる形にする作業は、AIを使うかどうかに関わらず必要になります。

遅らせてよい条件がある一方で、遅らせてはいけないこともあります。社員が個人アカウントで既に使っている場合、その把握と入力してよい情報の線引きは、導入の可否とは無関係に必要です。

公的資料が示す、効率化との違い

令和8年版情報通信白書は、日本では他の3か国(米国、ドイツ及び中国)に比べてAIを効率化ツールとしてとらえている傾向が見られたと整理しています。実際、生成AIの活用により生じうる影響として「作業時間の短縮などによる業務の効率化」を挙げた割合は61.6%で最も高く、「製品・サービスの質の向上」(32.2%)を大きく上回りました。

一方、白書が個別ヒアリングを実施したAI活用の先進企業では、経営層が業務の効率化に留まらず業務の変革をもたらしうるものとしてAIを位置づけていた、とされています。

白書はまた、国立情報学研究所の佐藤一郎教授の指摘として、企業は業務の自動化を目標にするのではなく、ノウハウや知見を資産化するための手段としてAIを捉え、導入した方が良いという見解を紹介しています。作業の自動化に留まると効率は向上するがAI自体の資産価値は上がらない一方、知見・知識・ノウハウをAI化することは、利用するほどAI側に知見が蓄積され、時間とともに価値が上がるAIを作れることにつながる、という整理です。

出典

よくあるご質問

AXという言葉は、国が定義しているのですか

当方が確認した範囲では、定義した公的文書は見当たりませんでした。経済産業省とIPAが2026年4月16日に公表した「デジタルスキル標準 ver.2.0」の公表資料に語としては登場しますが、そこで定義が示されているわけではありません。解説記事の定義にも、出典が付いたものはありませんでした。

DXが終わっていないのにAIを使ってよいのですか

業務で使う情報が取り出せる形にあるなら、使って構いません。DXの完了は、AI利用の前提条件ではないからです。ただし紙や個人の記憶にしか情報がない業務では、AIへ渡すものがないため着手できません。その場合は、情報を取り出せる形にする作業が先になります。

何人規模からAXに取り組むべきですか

人数ではなく、繰り返しの量で決まります。同じ作業が月に何十時間も発生しているなら、規模に関係なく検討する価値は十分にあるでしょう。逆に月数回の作業では、設定と確認にかかる手間のほうが上回ります。

専任担当者を置く必要がありますか

専任は不要です。必要なのは、決める人・伝える人・点検する人の3つの機能が誰かに割り当たっていることです。3つとも同じ人でも構いませんが、その人が休んだ日の代理は決めておいてください。

AXとDXの違いを一言で言うとどうなりますか

解説記事でよく使われる言い方は「DXでデータを蓄積し、AXでそのデータを活かす」です。この記事では、着手の単位が違うと捉えるほうが実務に沿うと考えています。DXは業務の流れそのものを組み直す話で、AXはその流れの中で誰が、あるいは何が担うのかを組み直す話になります。

今日やること

今日できることは、現在地の判定表を上から読んで、最初に当てはまった行を1つ選ぶことです。そこが入口になります。

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AX/DX Labo. 編集部

最終更新: 2026.08.01