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生成AIの情報漏えいを防ぐ社内運用の作り方

生成AIの情報漏えい対策を、実態把握・入力の線引き・利用ツールの把握・事故時の動きという4つの層に分け、着手順と「ここまでやれば手を止めてよい」到達点まで示します。製品を買わずにどこまで下げられるかも切り分けます。

生成AIの情報漏えいを防ぐ社内運用の作り方

この記事は、従業員10〜20名程度で情報システム部門がなく、社員が生成AIを使い始めている、あるいは使っているかどうかも把握できていない会社に向けたものです。総務か経営者が兼任で対応している状況を前提にしています。

対策を並べた記事は多くあります。しかし実務で詰まるのは「何から手を付けるか」と「どこまでやれば終わりか」です。この記事はその2つに答えます。個別の手順は、それぞれの詳細記事へ渡します。

結論

生成AIの情報漏えい対策で難しいのは、対策を知ることではなく順序を決めることです。実態を知る、線を引く、使っているものを把握する、起きたときの動きを決める。この順に、層ごとの到達点まで進めてください。

対策を並べても、順番が決まらない

生成AIの情報漏えい対策として挙げられるものは、おおむね決まっています。社内ルールの明文化、機密情報の入力禁止、学習に使わせない設定、従業員教育、法人向けプランやセキュリティ製品の導入。どれも必要です。問題は、これらが並列に並んでいることです。専任者がいない会社では同時に着手できません。1つずつ進めるしかない以上、順序が実務上の最大の争点になります。

もう1つ抜けているのが到達点です。対策リストには終わりがありません。「ここまでやったら、次の点検まで手を止めてよい」という線が引かれていないため、着手した会社ほど終わらない作業を抱えます。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けの3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が入りました。初選出年は2026年で、取り扱いは「初選出」です。これは被害件数や発生率ではなく選考会による投票順位ですが、対処すべき対象として認識され始めたことは示しています。

順序が決まらないもう1つの原因は、情報漏えいという言葉が別の2つの出来事をまとめて指していることにあります。1つは社員が入力した内容が提供元へ渡る経路、もう1つは提供元の側で会話履歴やアカウント情報が見えてしまう経路です。前者は自社の運用で下げられますが、後者は入力を厳しく制限しても残ります。

対策を並べた記事は、この2つを同じ見出しの下へ混ぜて置きます。混ざったままだと、入力のルールを整えた会社が、提供元側の事故にも備えたつもりになります。実際に何が起きたのかは生成AIの情報漏洩事例|出典を確認できる3件で、公表元をたどれる事例だけに絞って扱っています。

4つの層に分け、上から順に決める

順序を決めるために、対策を4つの層に分けます。層ごとに「決めること」は1つだけです。決まっていない層があると、その下の層は形だけになります。

決めること決まっていないと起きること詳細
第1層 実態誰が何に使っているか禁止しても実態が変わらない。守られたか確認できない利用状況調査/シャドーAI対策
第2層 線引き入力してよい情報の範囲現場が判断できず、聞ける人もいないので止まるか黙って使う入力してはいけない情報
第3層 把握どのサービスを誰の契約で使っているか設定を確認する対象が分からない。退職時に止められないAIツール管理台帳
第4層 事故起きたときに誰が何を決めるか初動が遅れ、報告期限の判断ができない事故が起きたときの初動

この順序には理由があります。第1層を飛ばすと、第2層で決めた線引きが現場の実態と合いません。第2層が決まっていなければ、第3層で台帳を作っても「入力してよい情報」の列は空欄のままです。

第1層|ルールより先に、実態を知る

多くの記事は「まず社内ルールを策定する」から始まります。この記事は実態把握を先に置きます。すでに誰かが使っている前提に立つと、順序が逆になるためです。ルールを先に作ると、既に使っている人は「これまでの利用が問題だったのか」を判断できません。多くは申告せず、利用を隠します。実態が見えないまま禁止だけが残る状態は、対策として最も弱い形です。

調査の設計と、正直に答えてもらうための条件は生成AIの社内利用状況をどう調べるかで扱っています。把握できていない個人利用への対処はシャドーAI対策です。

この層の到達点は、部署ごとに何人が何のサービスを使っているかが1枚に書けていることです。用途の詳細まで揃える必要はありません。

第2層|入力してよい情報の線を引く

「機密情報は入力しない」では現場は止まりません。何が機密かの判断が各人に委ねられるためです。決めるべきは、禁止側だけでなく入力してよい側の具体例です。

判断が分かれるのは、他者から預かった情報が含まれる文書です。社内の議事録にも取引先の名称や条件が入ります。社内文書かどうかは基準になりません。

業務別の判断表と、迷ったときの決め方は生成AIに入力してはいけない情報にまとめています。ルール文書として何を書くかは生成AIの社内ルールに必要な項目を参照してください。

この層の到達点は、迷ったときの相談先が決まっていて、その人の不在時の代理も決まっていることです。判断表だけを配っても、そこに載っていない事案は必ず出ます。

第3層|使っているものを一覧にする

設定を確認するには、確認する対象が確定している必要があります。第1層の調査結果を、更新し続けられる形に移します。既存のSaaS台帳に足すべき項目と、更新が続く運用の作り方はAIツール管理台帳の作り方で扱っています。無料プランのツールも対象です。無料プランは入力内容の扱いが既定で異なる場合があり、確認の必要性はむしろ高くなります。

ここで注意すべきなのが、学習に使わせない設定の限界です。設定しても入力内容そのものは提供元へ送信されています。設定は学習利用を止めるものであり、送信を止めるものではありません。この区別を曖昧にしたまま「設定したから安全」とすると、第2層の線引きが緩みます。

この層の到達点は、契約主体と設定の確認日が全ツールで埋まっていることです。

第4層|起きたときの動きを決めておく

予防で閉じている対策は、事故が起きた瞬間に何も残しません。生成AIの事故は、入力してしまったことに本人が気付いた時点から始まります。誰に、いつまでに、何を伝えるかが決まっていないと、その報告自体が上がってきません。

個人情報保護委員会は、漏えい等の報告義務について対象となる4類型を示し、速報を発覚から3〜5日以内、確報を30日以内(不正の目的をもって行われたおそれがある場合は60日以内)としています。自社の事案が該当するかどうかは事案ごとの判断であり、この記事で断定はしません。判断の枠組みと原典は個人情報保護委員会の公表資料を確認します。

最初の1時間・24時間・1週間に誰が何を決めるかは生成AIで事故が起きたときの初動で扱っています。

この層の到達点は、判断表を1枚作り、担当者の不在時の代理まで書いてあることです。訓練までは不要です。読み合わせを1回行うと、代理が決まっていない箇所が見つかります。

製品を買わずに、どこまで下げられるか

対策記事の後半は、ほぼ必ずセキュリティ製品や法人向けプランの導入に着地します。有効な手段ですが、月額課金の追加自体が意思決定事項になる規模では、先に運用でどこまで下がるかを知っておく必要があります。

下げたいもの運用と設定で下がるか残る部分
不用意な入力下がる。線引きと相談先で大半は防げるうっかりは残る。第4層で受ける
学習への利用下がる。設定と契約の確認で対応できる送信そのものは止まらない
把握していない個人利用下がる。処罰しない前提の調査が有効私物端末は運用に依存する
提供元の側で起きる露出下がらない入力を制限しても残る。第4層で受ける
送信内容の遮断下がらない技術的な制御が必要な領域
利用ログの網羅的な取得下がらない製品か法人プランでしか得られない

つまり製品が必要になるのは、下2行を必要とする理由が具体的に生じたときです。扱う情報の性質や取引先からの要求が理由になります。それが無い段階で導入しても、運用されない仕組みを抱えるだけです。

一方で「提供元の側で起きる露出」の行は、運用でも製品でも下がりません。OpenAIは2023年3月の障害について、外部ライブラリの不具合により、特定の9時間にアクティブだった有料会員の1.2%の支払い関連情報が他の利用者から見える状態にあったと公表しました。社員が機密情報を入力したために起きた事故ではありません。入力の線引きをどれだけ細かくしても防げない種類の出来事で、備え方は第4層に寄ります。

誰が決め、誰が周知し、誰が点検するか

専任者がいない会社では、役割を人に割り当てるより、3つの機能が誰かに割り当たっているかで確認するほうが確実です。

機能内容兼任してよいか
決める線引きと例外を判断し、責任を負う経営者が担う。委任しない
伝える決まったことを配り、迷った人の相談を受ける総務や管理部門が兼任できる
点検する設定と台帳を定期的に確認する「伝える」と同一人物でよいが、時期を決める

3つとも同じ人になる場合は、その人が休んだ日の代理を決めてください。決まっていない状態が、実務上いちばん多く見つかる欠落です。社員へどう伝えるかは生成AIの社員教育で扱っています。外部研修を買う前に自社でできる範囲があります。

ここまでやったら、手を止めてよい

4つの層それぞれの到達点が埋まったら、いったん完了と扱ってください。次にやるのは追加の対策ではなく、決めたことが実態と合っているかの点検です。

到達点点検の頻度
第1層 実態部署ごとの利用状況が1枚に書けている年1〜2回の再調査
第2層 線引き相談先と代理が決まっている例外が出たときに追記
第3層 把握契約主体と設定確認日が全ツールで埋まっている四半期に一度
第4層 事故判断表があり、代理まで書いてある年1回の読み合わせ

点検の回し方はAI活用の定期点検で扱っています。月30分・2人で回せる形にまとめました。

公的資料が示している順序

令和8年版情報通信白書は、社員が個人の判断でAIを業務に使用する「シャドーAI」は、入力した機密情報の流出等のリスクを孕むと記載しています。

対処として示されているのは禁止ではありません。企業内に情報漏えい対策等を適切に施した生成AIの活用環境を整備し、あわせて利用時のルールやガイドラインを整備・周知することで、安全に活用できるようになる、という順序です。使える場所を先に用意してから、ルールを周知する形です。

一方で白書は、日本のリスク対策が「全社的な指針やガイドラインを整備している」(41.1%)に寄っており、他の3か国では「導入後、定期的な評価・検証が行われている」と回答した割合が日本より高い傾向がある、とも記載しています。作ったルールを見直す工程まで含めて設計する必要があります。

出典

よくあるご質問

まず全社的に利用を禁止すべきですか

実態を把握する前の全面禁止は勧めません。既に使っている人が申告しなくなり、把握できない利用だけが残ります。禁止するとしても、承認された使い方を同時に示してください。使える手段がない状態の禁止は守られません。

法人向けプランに変えれば解決しますか

入力内容の扱いと契約上の責任範囲は改善します。ただし何を入力してよいかの判断は自社に残ったままです。プランを変えても、社員が取引先の情報を入力してよいかどうかは自社で決める必要があります。第2層は省略できません。

すでに誰かが入力してしまった可能性があります

まず何が入力された可能性があるかを、本人を責めない形で確認します。処罰を前提にすると情報が出てきません。そのうえで、対象が他者から預かった情報を含むかどうかで対応の重さが変わります。会話履歴を削除できるサービスもありますが、削除が学習への不使用を意味するとは限らないため、設定と契約を確認します。

取引先から生成AIの利用状況を聞かれました

答えられる状態にしておくべきなのは、使用しているサービス名、入力してよい情報の範囲、学習利用の設定、事故時の連絡経路の4点です。この記事の4層が埋まっていれば、そのまま回答できます。逆に答えられない項目があれば、そこが埋まっていない層です。

今週やること

今週着手するなら、第1層です。部署ごとに何人が何を使っているかを、処罰しない前提で聞いてください。1枚埋まった時点で、次に何を決めるべきかが見えます。

どの層から着手すべきかの判断や、取引先への回答が必要な場合は、AX/DX Labo. へご相談ください。現在の運用状況をもとに、埋まっていない層と着手順を整理します。

着手の順序に迷う場合は、お問い合わせからご連絡ください。

ここまでの整理を踏まえて、無料診断で現在の段階を確認できます。

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AX/DX Labo. 編集部

技術確認: 技術確認担当/ 最終更新: 2026.07.28