実務ガイド

業務可視化のやり方|フロー図より先に、待ち時間と例外を記録する

業務可視化とは何か、どの順序で進めるかを示します。工程・担当・時間・入力・出力・例外の6項目を表で記録し、特に待ち時間と例外を押さえる方法をまとめました。書き方の選び方、測り方、可視化の後にやることまでを扱います。

業務可視化のやり方|フロー図より先に、待ち時間と例外を記録する

この記事は、業務改善やシステム化の前に現状を把握したい中小企業の管理部門とDX担当者に向けたものです。業務可視化を扱う記事は、フロー図の描き方と作図ツールの紹介が中心です。しかし実務で効くのは、図の美しさではありません。何を記録したかです。この記事では、記録すべき6項目と、そのうち最も見落とされる2項目に重点を置いて説明します。

業務可視化とは

業務可視化とは、誰が、どの順序で、何を使って作業しているのかを、その業務を担当していない人にも読める形へ書き出すことを指します。頭の中や個人の手順書にしか無い進め方を、共通の資料へ移す作業だと考えてください。書き出す対象は作業そのものだけではなく、誰の判断を待っているか、どんな例外が起きるかまで含みます。

呼び方は現場によって違い、「見える化」「業務の可視化」「業務プロセスの可視化」はいずれも同じ意味で使われています。表記の差に意味の違いはないため、社内で通じている言い方をそのまま使って構いません。なお可視化を内部統制の文書化として説明する記事が多く見られますが、あれは金融商品取引法上の上場会社等を対象とした制度対応の話です。この記事は非上場の中小企業を前提に、制度対応ではなく改善の材料を作る目的で扱います。可視化して分かることと、分からないままにしたときに起きることを並べると次のようになります。

観点可視化で分かること分からないままだと起きること
属人化その工程を担当できる人が何人いるか担当者の休みや退職で業務が止まる
引き継ぎ引き継ぎに要る判断基準と例外の一覧口頭で伝え漏れ、後任が同じ失敗を繰り返す
重複作業同じ情報を何回入力し直しているか転記の手間と入力の誤りが増え続ける
待ちの長さ作業と作業のあいだで何日止まっているか作業を速くしても所要日数が縮まらない
自動化・AI化の可否例外がどの工程に何割あるか導入したあとも例外処理が人手で残る

結論

業務可視化に必要なのは、作図の技術でも専用ツールでもありません。工程・担当・時間・入力・出力・例外の6項目を表に書き、工程間の待ち時間を加える。これだけで改善の候補は見つかります。

業務可視化の進め方の全体像

進め方は5つの段階に分かれます。段階ごとに終わったと判断する条件があり、そこを満たさないまま次へ移ると、記録の粒度がそろわず後で作り直しになります。まず全体の並びを頭に入れてから、それぞれの詳細を読み進めてください。

段階やること終わったと判断する条件
1 対象を1業務に絞る部署ではなく業務の名前で対象を1つ決める対象の始まりと終わりを1文で言える
2 工程を動詞で書き出す1行1工程で、動詞の形にそろえて並べる5〜15行に収まり、担当が全ての行に入っている
3 時間と例外を埋める1回あたりの所要時間と、通常と違う扱いを書く例外の欄が空いたままの行が1つも無い
4 工程間の待ちを挿し込む工程と工程のあいだに待ちの行を足す何を待っているかが行ごとに書けている
5 改善候補を選ぶ重複、使われていない出力、長い待ち、1人工程を拾う手を打つ候補が3件以上挙がっている

2で使う列の中身は「記録する6項目」、4の書き方は「待ち時間を必ず入れる」、3の難所である例外の引き出し方は「例外の記録が最も価値がある」でそれぞれ扱います。5の拾い方は「可視化の後にやること」にまとめました。そのまま書き込める記録用紙の形が欲しい場合は、業務棚卸し表の作り方に9項目のフォーマットを置いています。

どの書き方を選ぶか

記録するものと、作らなくてよいもの(内側 3 項目・外側 3 項目の範囲図)

可視化と聞くと、記号を使った業務フロー図を想像します。作図に慣れていれば有効ですが、慣れていない人が取り組むと、記号の使い分けや線の引き方に時間を取られ、肝心の中身が薄くなります。

多くの場合、表計算ソフトの表で足ります。1行が1工程です。図が必要になるのは、分岐が多く、順序が言葉で説明しにくい業務だけです。まず表で書き出し、必要になったときだけ図にします。作図ツールの導入を検討するのは、可視化を何度も繰り返すと決まってからで間に合います。最初の1業務は、手元にあるもので進めます。

とはいえ、ほかにどんな書き方があるかを知らないまま表を選ぶのと、比べたうえで表を選ぶのとでは、後の判断の確かさが違います。代表的な5つの書き方を、何を表せるか、どんな場合に向くか、作るのに何が要るかで並べます。

書き方何を表せるか向いている場合作るのに必要な前提
表計算ソフトの工程表順序、担当、時間、入力と出力、例外、待ち最初の1業務。分岐の少ない定型業務表計算ソフトがあればよい
フローチャート条件による分岐と合流を含む順序扱う金額や種類で流れが変わる業務記号の使い分けを先に決めておくこと
プロセスマップ部門をまたぐ受け渡しと、担当ごとの持ち分3部門以上が関わる業務登場する部門と並び順を先に決めること
業務記述書各工程の手順と判断の基準を文章で引き継ぎ資料や手順書を兼ねる場合書く人の作業時間をまとめて確保すること
BPMN分岐、待ち、発生する出来事、例外を共通の記法で社外や情報システム部門と同じ図を共有する場合記法の学習と、対応する作図ツール

表の最後に挙げたBPMNは Business Process Model and Notation の略で、Object Management Group(OMG)が仕様を公開している業務プロセスの記法です。最新版は 2.0.2 で、2014年1月に発行されています。仕様はOMGのBPMN仕様ページで読めますが、記法を覚える手間が要るため、最初の1業務で選ぶものではありません。

記録する6項目

1工程につき、次の6項目を記録します。列はこれ以上増やしません。

項目記録する内容後で何に使うか
工程その工程で何をするか(動詞で書く)順序と重複の確認
担当実際に手を動かす人属人化と負荷の偏りの確認
時間1回あたりの所要時間(実測)改善効果の比較
入力その工程を始めるために必要な情報や物前工程との依存関係の確認
出力その工程が終わったときにできるもの次工程への引き渡し
例外通常と違う扱いになる場合と、その頻度自動化やAI活用の可否判断

工程は動詞で書きます。「請求書」ではなく「請求書を作成する」「請求書を確認する」「請求書を送付する」と分けます。名詞で書くと、複数の作業が1行にまとまり、どこに時間がかかっているか分からなくなります。

記入例

「請求書を発行する」という業務を例に、6項目を埋めた形を示します。数値は考え方を示すための仮の値です。

工程担当時間入力出力例外
締め日の売上を集計する経理40分販売管理の売上データ集計表月末が休日の場合は前営業日
請求書を作成する経理15分/件集計表、取引先マスタ請求書(PDF)3社は先方指定の様式
内容を確認する経理課長20分請求書(PDF)確認済みの請求書10万円超は社長も確認
送付する経理10分確認済みの請求書送付済みの請求書2社は郵送のみ
入金を消し込む経理30分口座明細、請求書一覧消込済みの一覧一部入金、相殺は手作業

この表だけで、いくつか見えてきます。例外がすべての工程に存在すること、確認工程に2名が関わること、そして「先方指定の様式」「郵送のみ」「相殺」が自動化を難しくしている箇所であることです。

工程の粒度をどう決めるか

細かすぎると行数が増えて続かなくなります。粗すぎると時間の内訳が分かりません。目安は、1業務あたり5〜15行です。分ける基準は、担当者が変わるところ、使う道具が変わるところ、そして待ちが発生するところです。この3つで区切れば、自然に適切な粒度になります。同じ人が同じ道具で連続して行う作業は、1行にまとめて構いません。

誰がどうやって測るか

本人が測る

作業している本人が実測します。上司が横で計ると、普段より速くなり、改善前の値が実態より短く出ます。結果として改善効果が小さく見え、判断を誤ります。

測り方の選び方

方法精度手間向いている場合
実測(開始と終了を記録)高い頻度が高く、対象を絞れている業務
記憶からの記入低いまず全体像を掴みたい段階
一定期間の作業記録工程が多く、待ちが複雑な業務

最初は記憶からの記入で全体像を作り、対象を絞ってから実測する、という二段構えが現実的です。いきなり全工程を実測しようとすると、途中で止まります。

目的を先に伝える

測定を依頼するときは、目的を先に伝えます。「この業務を楽にするために、今どれくらいかかっているかを知りたい」と説明があれば協力が得られます。目的を伝えずに時間を計ると、評価のための監視だと受け取られ、記録が正確でなくなります。

記録が監視だと受け取られるとき

記録を求められた側が身構えるのは、時間を測られること自体より、決まった手順から外れることを咎められると感じるためです。手順を細かく固定しすぎると、現場は例外に対応した時点で決まりに反したことになり、実態と違う記録を出すようになります。

これを避ける方法は単純で、6項目の「例外」欄を空欄のまま残さないことです。例外を書く欄が最初から用意されていれば、手順どおりにいかなかった事実は報告すべき情報になり、隠す対象ではなくなります。可視化のあとで手順を固めるときも、例外欄に書かれた件数を見て、どこを固定してどこを担当者の判断に残すかを決めます。

待ち時間を必ず入れる

6項目に加えて、工程と工程のあいだの待ち時間を記録します。ここが多くの可視化で抜けます。この記事で決めるのは工程表に待ちの行を挿し込むことです。工程と工程のあいだに1行足し、何を待っているかだけを書きます。後述の実例表がその形です。待ちを何種類に分けるか、どう測るかは業務改善のKPIで扱っています。可視化の段階では、待ちが「ある」ことを表に出すところまでで十分です。分類まで持ち込むと、記録が止まります。

待ちの行を挿し込むと、改善の対象が変わることがあります。作業を速くするより、承認を1段減らすほうが効く、という結論はここから出ます。作業時間だけを並べた工程表では、この判断に至りません。

待ち時間を入れた実例

先ほどの請求業務に、工程間の待ちを書き足すとどう見えるかを示します。数値は考え方を示すための仮の値です。

工程または待ち時間内容
1締め日の売上を集計する40分作業
2待ち半日課長の確認待ち(不在日は翌日)
3請求書を作成する15分×80件作業
4待ち最長3日10万円超の分は社長の確認待ち
5送付する10分作業

作業時間の合計は約21時間ですが、依頼から送付完了までは最長で4日かかっています。差はすべて待ちです。ここで作成の15分を10分に短縮しても、送付までの日数はほとんど変わりません。

この表を見ると、手を打つべき箇所が見えてきます。2番の待ちは代理承認者を決めれば消え、4番は承認の金額基準を見直せば件数が減ります。どちらも作業の効率化ではなく、承認の設計の話です。

待ちを記録しないまま改善に着手すると、作業時間の短縮だけに労力を使い、所要日数が変わらないという結果になります。可視化の段階で待ちを入れる理由は、ここにあるわけです。

例外の記録が最も価値がある

通常の手順は、担当者に聞けばすぐ出てきます。時間がかかるのは例外の洗い出しですが、ここが最も価値のある記録になります。この取引先だけ様式が違う。金額が一定を超えると承認者が変わる。月末だけ処理の順序が変わります。特定の担当者しか判断できない案件がある。システムに登録できず、手作業で処理している件も出てきます。例外の有無と頻度が、そのまま自動化やAI活用ができるかどうかの判断材料になります。例外が全体の1割なら例外だけ人が扱う設計にできますが、4割あるなら通常手順のほうが例外です。

例外は「そういえば」と後から出てきます。1回の聞き取りで終わらせず、記録した内容を担当者へ見せて、抜けがないか確認する時間を取ります。

例外を引き出す聞き方

「例外はありますか」と聞いても、たいてい「特にありません」と返ってきます。本人にとっては日常なので、例外として認識されていないためです。聞き方を変えます。

この手順どおりにいかないのは、月に何件くらいですか。新しく入った人がつまずくのはどこですか。あなたが休んだとき、代わりの人が困るのはどの工程ですか。取引先ごとにやり方が違うところはどこですか。システムに入らなくて手作業でやっている件はありますか。

3番目が特に有効です。「代わりの人が困るところ」は、そのまま例外か属人化の箇所です。本人が意識していない判断も、この聞き方だと言語化されます。

聞き取りは1回で終わらせず、記録した内容を本人へ見せて確認する場を設けます。書かれたものを見ると「これも書いておいたほうがいい」が出てきます。この2回目で拾える内容が、可視化の質を決めます。

可視化の後にやること

可視化そのものは成果ではありません。記録を作って満足してしまうのが、この作業で最もよくある失敗です。記録ができたら、次の4点を確認します。

同じことを2回やっている工程はないか。転記、二重確認、重複した記録などです。誰も使っていない出力はないか。作っているが読まれていない資料を探します。待ち時間が作業時間より長い箇所はどこか。1人しかできない工程がどこかも見ます。

この4点に該当する箇所が、そのまま改善の候補になります。可視化の目的は、この候補を見つけることです。候補が出なければ、記録の粒度が粗いか、対象業務の選定を見直す必要があります。たとえば承認が複数の段に分かれている申請業務では、段の数そのものが待ちを生んでいるため、金額や種類による分岐から先に見ます。同じ情報を複数の台帳へ登録している業務なら、どれが正でどれが写しなのかを決めるところから手を付けます。

改善の進め方は属人化を解消する業務棚卸しの進め方、AI活用を検討する段階へ進む場合は中小企業がAI導入前に整理すべき業務を参照してください。

手入力の工程が残っている場合は請求書や納品書をAIで読み取るで、対象にできる帳票の見分け方を扱っています。

可視化した先で、何が必要になるか

令和8年版情報通信白書は、国立情報学研究所の佐藤一郎教授へのヒアリングとして、AI導入に成功するための最初のステップとしてAIに対応するデータがあるかどうか、つまり「AI-Ready」化ができているかどうかという点があると紹介しています。

白書はまた、AI活用の先進企業が業務プロセスの再設計に当たって人間とAIの役割分担の設計を重要視しているとし、業務領域の特性や人間が負うべき責任の範囲を見極めていると記載しています。

同じ白書は、生成AIの活用による業務変革等について、全社横断・各部署単位・個人業務単位のいずれかで組織的に取り組んでいると答えた割合が日本で65.6%だったと示しています。一方で「組織的な取組はない」は27.0%あり、米国・ドイツ・中国と比べて顕著に高く、企業規模別では中小企業で特に高い水準でした。可視化を担当者ひとりの手元で終わらせると、この27.0%の側から抜け出せません。記録した内容を誰が引き取り、次に何を決めるのかまでを、記録を始める前に決めておきます。

可視化は、この2つの前提を作る作業にあたります。どの工程で何が生まれ、どこに置かれるかが分からないままでは、任せる範囲もデータの状態も判断できません。可視化の結果を投資の判断へつなげる段階は省力化投資はAI3割・ITツール7割にまとめました。

出典

よくあるご質問

業務フロー図は作らなくてよいのですか

最初の1業務は表で足ります。図が要るのは、条件によって流れが分かれる箇所が3つ以上あるとき、そして関わる部門が3つ以上にまたがるときです。この2つに当てはまらなければ、表のまま進めて差し支えありません。当てはまる場合も、先に表で工程を書き出してから図へ起こすほうが、抜けが少なくなります。

記録はどのくらいの期間取りますか

その業務が1サイクル完了する期間の3倍が目安です。月次処理なら3か月では長すぎるため、直近1サイクルを詳しく記録し、過去2回分は担当者への聞き取りで補います。

繁忙期と閑散期のどちらで測りますか

通常期で測り、繁忙期の差分を注記します。繁忙期だけで測ると、常時その体制が必要だと誤解されます。閑散期だけで測ると、改善の必要性が過小に見えます。

記録を頼むと現場が身構えます

記録の用途を先に伝えます。評価に使わないこと、記録の結果として担当者の仕事が増えないことを明示します。用途を伝えずに記録だけ依頼すると、実態より整った数字が出てきます。記録票への明記の仕方は、業務改善のKPIを扱った記事にまとめています。

今週着手するなら、対象を1業務に絞り、工程を動詞で10行程度書き出すところまでです。時間と例外は、その後で担当者に聞きながら埋めます。

可視化を含むDX全体の進め方は中小企業のDXは何から始める?で扱っています。

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編集者K

技術確認: 編集者K/ 最終更新: 2026.09.07