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生成AIが社内に浸透しない|「使われていない」を5つの状態に分けて原因を特定する

生成AIを導入したのに社内に浸透しない。研修を追加しても定着しないのは、原因が5通りあるためです。使い方が分からない・元のやり方が速い・出力が信用されない・入力範囲が分からない・効果が本人に返っていない。状態ごとの見分け方と対処、そして解約する基準までを示します。

生成AIが社内に浸透しない|「使われていない」を5つの状態に分けて原因を特定する

この記事は、生成AIの契約もアカウント発行も研修も済ませたのに、社内に浸透しない状態にある中小企業の経営者とAI推進担当に向けたものです。定着を扱う記事の多くは、失敗原因を3〜5個に分類し、業務棚卸しから継続フォローまでの4ステップを示して終わります。原因の一覧は診断の道具にならず、結局「もう一度研修をしよう」に落ち着きます。この記事では「使われていない」を5つの状態に分解します。対処が5通りに完全に分かれるため、状態を特定せずに手を打つと外れます。あわせて、解約する基準も扱います。

なお、導入作業そのものが途中で止まっている場合は別の記事の範囲です。プロジェクトが中断している状態については、目的・対象業務・責任者・評価・運用の5つを点検する手順を別途用意しています。本記事は導入は完了し、ツールは動いているのに使われない状態を扱います。

結論

使われない原因は5通りあり、研修で解決するのはそのうち1つだけです。管理画面で未使用者を把握し、3つの質問で状態を切り分ける。ここまでで、打つべき手は決まります。そして定着の判定は利用率ではなく、元の手順が業務フローから消えたかで行います。消えていなければ、まだ併存している状態です。

「使われていない」は1つの状態ではない

同じ「使われていない」でも、現場で起きていることは異なります。まず5つに分けます。

状態現場で起きていること見分け方
a 使い方が分からない開いたが何を入力すればよいか分からず閉じたログイン記録はあるが、実行がほぼない
b 元のやり方が速い試したが、自分でやったほうが早かった数回使って止まっている
c 出力が信用されない結果を確認する手間が上回っている使うが、毎回大幅に書き直している
d 入力範囲が分からない入れてよいか判断できず途中で止めた当たり障りのない用途にしか使われていない
e 効果が本人に返らない速くなった分だけ別の仕事が乗った使えるが使わなくなった。不満が出ている

一部の人しか使っていない状態は、この会社だけに起きていることではありません。帝国データバンクが2026年3月に10,312社から有効回答を得た調査では、生成AIを活用している企業は34.5%で、中小企業32.4%、小規模企業28.0%と規模が小さいほど下がります。悪影響として「使いこなし格差の拡大」を挙げた企業も18.8%ありました。パーソル総合研究所が2025年10月に正規雇用者3,000人へ行った調査でも、業務利用率は32.4%である一方、週4日以上使う人は11.7%にとどまっています。配るところまでは進んで、そこから先で止まるのが平均的な姿だと考えて構いません。

5つの状態は、この2つの調査の項目とおおむね対応します。帝国データバンクの調査で活用にあたっての懸念として最も多く挙がったのは情報の正確性で50.4%でした。これは出力を確認する手間が上回る状態cにあたります。活用すべき業務範囲40.0%、情報漏洩リスク33.5%、ルール整備25.5%は、入れてよい情報の判断がつかない状態dへ対応するものです。専門人材・ノウハウ不足41.3%が状態aに近く、最も多い懸念は研修で解決する状態aではありませんでした。

研修の追加で改善するのはaだけです。b〜eに研修を重ねても状況は変わりません。むしろ「教えたのに使わない」という評価につながり、現場との距離が開きます。

状態ごとの対処

a|使い方が分からない

唯一、教育で解決する状態です。ただし集合研修ではなく、本人の業務を隣で1回一緒にやるほうが速く終わります。所要は15分程度です。あわせて、社内で実際に使われている指示文を共有の場所に集めます。他人が書いた実例が最も効きます。

b|元のやり方が速い

多くの場合、これは正しい指摘です。対象業務の選定が誤っています。定型で反復があり、出力の確認がその場でできる業務へ対象を変えます。無理に使わせると、かえって時間が増えていきます。

削減幅の実測も、この判断を支えます。パーソル総合研究所の調査では、生成AIを使っている人でも業務時間の削減率は平均16.7%、時間にすると週あたり26.4分でした。業務のやり方そのものを作り替えるほどの差ではありません。合わない業務に当てれば、この程度の削減幅は操作や確認の手間で簡単に消えていきます。自分でやったほうが早いという申告は、たいてい対象業務の選び方を指しています。

c|出力が信用されない

確認の手間が削減時間を上回っている状態です。対処は2つ。指示の型を配って出力の質を安定させるか、確認が軽い業務へ対象を変えるかです。「慣れれば大丈夫」で放置すると、使わなくなります。

d|入力範囲が分からない

最も見落とされる状態です。当たり障りのない用途にしか使われていない場合、多くはこれです。入力してよい情報の判断表がないか、あっても届いていません。1枚にして配り、迷ったときの相談先と回答の目安時間を明示します。

ルールの整備状況は生成AIの社内ルールに必要な項目、入力範囲の決め方は生成AIの情報漏えいを防ぐ社内運用の作り方で確認します。

e|効果が本人に返らない

速くなった分だけ別の仕事が乗る状態です。合理的な行動として、使うのをやめてしまいます。削減した時間を何に使うかを、本人が納得できる形で決めます。早く帰る、別の業務の質を上げる、教育に充てる。どれでも構いませんが、決めていないと必ずこの状態になります。

これは印象ではなく、調査でも観測されている動きです。パーソル総合研究所の調査では、生成AIで削減できた時間の61.2%が仕事へ再び投じられており、その内訳の75.4%はメール対応などの日常業務に充てられていました。浮いた時間は、決めておかない限り元の業務へ吸い込まれます。削減した時間の行き先を先に決めるのは、そのためです。

5つに共通する着手の順序

5つのどれであっても、着手の順序は同じです。まず管理画面を開き、アカウントを発行済みで一度も使っていない人が何人いるかを数えます。次に、その中から3名を選び、自分でやるのと比べてどうだったか、入れてよい情報かどうかで迷ったことはあるか、速く終わった時間を何に使ったかの3つを聞きます。

回答から状態を1つに決め、その状態の対処だけを実行してください。複数を同時に手当てすると、何が効いたのか分からなくなります。1か月後にもう一度管理画面を開いて、未使用者の人数が減っているかを確かめます。減っていなければ、対処が足りなかったと考える前に、状態の見立てが違っていた可能性を疑ってください。

どの状態かを見分ける

5つを見分けるには、記録と質問の両方が要ります。ただし多くの解説記事は「利用率を測る」とは言うものの、どこで何を見るかを書いていません。実務では次の2つで足ります。

1|管理画面で見る

法人プランを契約している場合、管理画面に利用状況が残っていることがあります。確認できる項目はサービスと契約プランによって異なるため、まず自社の管理画面で何が見えるかを確かめます。見えるとすれば、おおむね次の範囲です。

利用者ごとの最終利用日、期間内に一度でも使った人数、アカウントを発行したが一度も使っていない人。この3つを見ます。

3番目が最も有用です。発行済みで未使用のアカウントが並んでいれば、状態aかdです。ここから先は本人に聞くしかありません。

2|3つの質問で聞く

使ってみて、自分でやるのと比べてどうでしたか。ここでbとcを切り分けます。入れてよい情報かどうかで迷ったことはありますか。dの確認です。速く終わった分、その時間は何に使いましたか。eの確認になります。

3問で5状態はほぼ切り分けられます。全員に聞く必要はありません。使っていない人を3名選んで聞けば、傾向は掴めます。

経営者自身が使っているか

定着を扱う記事は「経営層の関与が必要」と書きますが、関与の中身を分けていません。実際には2つあり、効き方がまったく違います。

関与のしかた現場への伝わり方
予算を出す、号令をかけるやらされている、と受け取られる
経営者自身が日常業務で使っている使ってよいことが行動で伝わる

10〜20名の会社では、後者の効果が圧倒的です。経営者が旧来のやり方を続けていると、現場は必ずそちらへ戻ります。逆に経営者が使っていれば、多少不便でも使われ続けます。毎日使う必要はありません。週に1回、自分の業務で使って、その結果を朝礼や打ち合わせで一言共有する。これだけで十分です。うまくいかなかった話でも構いません。むしろそのほうが、失敗しても責められないことが伝わります。

業務フローのどこに置くか

「業務に組み込む」という言葉はよく使われますが、実務ではどの帳票の、どの工程の、どこに差し込むかまで決めないと組み込まれません。次の3つのどれかに置きます。

置く場所具体例定着しやすさ
既存の手順書の該当行を差し替える「一から作成する」を「下書きを作らせてから直す」へ書き換える高い
既存の様式に欄を足す確認欄に「AI下書きの有無」を追加する
新しい手順を別に作るAI利用マニュアルを別冊で用意する低い

3番目が最も選ばれ、最も定着しません。別冊は読まれないためです。既存の手順書の該当行を1行書き換えるほうが、労力も小さく効果も高くなります。書き換える手順書がない場合は、その業務の手順が文書化されていないということです。定着以前に、手順の言語化から始めます。

定着を利用率で測らない

利用回数やログイン数を目標にすると、数字は上がります。ただし使う必要のない業務でも使われるようになるだけで、定着したことにはなりません。判定はひとつです。元の手順が業務フローから消えたか。

状態判定
元の手順書が残っていて、両方が使われている定着していない
元の手順は残っているが、誰も使っていない定着しつつある。手順書を閉じる
元の手順が業務フローから消えている定着した
新しい手順が使われず、元の手順だけが動いている5状態のどれかに該当している

1行目の状態を放置すると、いつまでも定着しません。新旧が併存している限り、慣れている旧手順が選ばれます。定着したと判断したら、旧手順の様式とフォルダを閉じます。

利用率を使わない判定は、調査機関の指摘とも重なります。パーソル総合研究所のコラム(2026年3月12日、田村元樹)は、利用率という指標には「単純な用途で利用した人も、高度な用途で利用した人も、同じ1人の利用者としてカウントされてしまう」欠陥があると指摘しました。同じ調査で、業務利用率32.4%に対して週4日以上使う人は11.7%です。数字が上がっても中身が薄いままということが起こります。

やめる基準を決める

定着を扱う記事のほとんどが避けている論点です。使われないツールを解約する基準がないと、費用だけが残ります。

次を目安にします。

状況判断
3か月、実際の業務での利用がほぼない解約または人数を絞る
特定の1人だけが使っているその1人分だけ残し、他は停止する
状態bと判定された(元のやり方が速い)対象業務を変える。変える先がなければ解約
状態cが改善しない(出力が信用されない)対象業務を変える。変える先がなければ解約
状態aまたはdで、対処後1か月で改善した継続する

解約は失敗ではありません。その業務にそのツールが合わなかったという結果です。導入時に支払った費用は、続けても止めても戻りません。判断には含めない費用です。

続ける・やめるの判定を数字で行う方法はAI導入の費用対効果をどう測る?で扱っています。

「使われていない」に見えて、実は体制の問題である場合

定着の問題か、体制の問題か(止まる前、その業務を回していたのは何人か で 3 つに分かれる図)

5つの状態のどれにも当てはまらないのに利用が止まっている場合、原因は定着ではなく体制側です。1〜2名で回している会社では、その人の異動や退職で一気に止まります。

引き継げる状態にする方法と、誰が何を決めるかの分担はAI推進体制の作り方で扱っています。本記事は、体制はあるのに使われていない状態の診断に範囲を絞ります。

白書は、環境を整備しただけでは一部の積極的な社員が使うだけで終わる可能性を明記しました。効率化で止まる会社と、そうでない会社で、その先の進め方を扱っています。

止まる状態は、白書にも書かれている

令和8年版情報通信白書は、汎用的なAIツールが導入されても一部の積極的な社員が活用するのみで、全社的な活用と効果創出に至らない可能性もあると記載しています。使われていない状態は、例外ではありません。

そのうえで、先進企業は活用環境の整備で終わらせず、活用ユースケースの収集や社内展開、定期的なワークショップ開催など、具体的な活用シーンと効果を実感できるような活用促進策を実施することにより、会社全体への浸透を実現している、としています。

白書が挙げる例では、日清食品グループが対象業務を部門ごとに選定したうえでプロンプトのひな形を作成し、効果を測定する取組を少しずつ社内展開した結果、社内の生成AI利用率が直近では7割超に到達しているとされています。渡す単位が狭すぎて効果が出ていない場合はAIに渡す単位を、狭く切りすぎていないかをご覧ください。「困っていない」と言われて止まっている場合の確かめ方は、「困っていない」と言われたときにあります。

出典

全員に配ったまま使われていない場合は全員に配ったAIツールを、1人分へ戻すで、契約の縮め方を扱っています。

よくあるご質問

導入してからどのくらいで判断すべきですか

対象業務の1サイクルを3回まわせる期間が目安です。月次業務なら3か月、週次業務なら3週間になります。それより短いと操作の不慣れと適性の問題を切り分けられません。逆に半年を過ぎても判断していない場合、判断基準を決めていないことが原因です。

一部の人だけが使っている状態は失敗ですか

失敗とは限りません。使っている人の業務でだけ条件が揃っている可能性があります。まず、その人が使えている理由を業務の性質で説明できるかを確認します。説明できるなら対象業務の選び方の問題で、説明できないなら教育か環境の問題です。

一部のリテラシーの高い社員しか使っていません。放置してよいですか

格差そのものは珍しくありません。帝国データバンクの調査では、生成AIの悪影響として「使いこなし格差の拡大」を挙げた企業が18.8%ありました。ただし放置すると、使えている人の業務だけが速くなり、部署全体の処理量は変わらないままです。まず、その人が使えている理由を業務の条件で言葉にします。反復がある、出力をその場で確認できる、成果物の形が決まっている、といった条件です。それが他の人の業務にも当てはまるなら教育や手順の問題で、当てはまらないなら対象業務の選び方の問題になります。

使いこなし格差を含め、AI導入のデメリット全体はAI導入のデメリット|対策すれば消えるものと、消えないもので、対策で消えるものと10〜20名では消えないものに分けて整理しています。

使わない社員に利用を義務づけてよいですか

義務づける前に、その業務でAIを使うと本当に速くなるかを確認します。確認せずに義務づけると、報告のための利用が発生し、実態が見えなくなります。義務づけが有効なのは、効果が確認済みで、かつ手順が用意されている業務に限られます。

やめた後、同じ業務で再挑戦してもよいですか

構いません。やめた理由を記録してあれば、その条件が変わったときが再挑戦の時期です。多いのは、対象業務が不適切だった場合と、ツールの機能が不足していた場合です。前者は業務を変えない限り結果は変わりません。

今週着手するなら、管理画面を開いて「発行済みで一度も使っていない人」を数えるところまでです。全体の進め方に戻る場合は中小企業のDXは何から始める?、対象業務の選び直しは中小企業がAI導入前に整理すべき業務を参照してください。

現在お使いのツールを前提に整理することもできます。お問い合わせはこちらです。

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編集者K

技術確認: 編集者K/ 最終更新: 2026.09.05